深読み45巻46巻レビュー



45巻と46巻は2冊で1冊の構成になっているのだが、取り敢えず45巻から行ってみよう。45巻のメインテーマは、「ガラスの仮面」の本来の姿に戻って、役作り、芝居作りがメインに描かれている。

(1)黒沼組
 44巻のラストは、月影先生の所で、速水真澄と北島マヤが出会うシーン、鷹宮紫織が速水の伊豆の別荘でマヤのアルバムの写真を引き裂くシーン、そして姫川亜弓の病室でのシーンで終わっていた。
44巻のラストがそれぞれ、45巻、46巻の伏線であった事は間違いない。
45巻は、月影千草が身を寄せている演劇協会理事の別邸から始まる。
ここでは、速水真澄と北島マヤが、それぞれ二つに別れた一つの魂について月影千草に訊ねる為に訪れるのだが、この部分の詳細は次項に譲る。

45巻において特筆すべき点は、作者が「紅天女」の世界観を黒沼龍三の言葉を借りて語っている点だろう。
尾崎一連によって書かれた「紅天女」だが、尾崎一連は生活苦の中、月影千草に「紅天女」の上演権を残して自殺する。
千草は「紅天女」を演じ続けるが顔に受けた怪我によって舞台を去る。結果、「紅天女」は二度と演じられず、演劇界幻の名作として後世に伝えられる事になる。「ガラスの仮面」という物語のそもそもの発端となった「紅天女」。40巻において「紅天女」の全貌はほぼ描かれているが、45巻ではもう一歩踏み込んで、「紅天女」のバックボーンとなる思想、世界観が描かれている。
黒沼龍三は「紅天女」のリアリティを役者達に掴ませようとする。
黒沼はマヤ、桜小路ら主要メンバーを引き連れてファミリーレストランへ繰り出す。そこで、如何に自然に台詞を言えるか、ファミレスという日常の風景の中で芝居の台詞を如何に普通に話せるか練習させる。黒沼はファミレス、道路の歩道橋、東京都庁と場所を変えて稽古をつけ、3人の中にあるそれぞれの役のリアリティを引っ張り出す。黒沼の台詞「芝居の中の3人も南北朝という現代に生きる人間達だぞ」の中に黒沼の目指す「紅天女」が語られている。
特に黒沼は東京都庁において、「紅天女」の女神の視点、阿古夜の世界観、紅天女の世界観、一真の死生観をマヤと桜小路に考えさせる。黒沼はここで、役者達に役を掴ませるという形を取りながら、演出家としてどういう舞台を作り上げようとしているのかを解説している。

東京都庁を舞台に黒沼龍三が語る紅天女の世界。
これこそが、美内すずえ先生が書きたいテーマなのだろう。
従って最も重要なシーンであると思われる。
何故なら、45巻を発刊するにあたって、いつもと同じように改稿されているのだが、付け加えられたシーンは、速水真澄が東京都庁でオブジェの前に佇むシーンなのだ。このオブジェはマヤが黒沼の指導の元に紅天女の世界をイメージしたオブジェなのだ。しかも、見開き2ページを使っているのである。これは何を意味するのだろう。
北島マヤの魂の片割れ、速水真澄をマヤと同じオブジェの前に立たせる。そこにどんな意味が隠されているのだろう。

「未来永劫に続く普遍の生命」「完全なる世界」というのが紅天女の世界観であると作者は書いている。
陰と陽、想像と破壊、円、連続する世界。
こういった言葉から私は、対極の事象を内包する事で初めて完全な世界になると作者が言っているように思う。
「二つに別れた一つの魂」が一つになって完全なる世界を構成する。そのとき、両極の感情を内包する円によって速水真澄と北島マヤの二人の世界が完成するのではと私は思う。両極の感情については後述する。

ここまでが45巻前半部分である。


(2)姫川亜弓
45巻後半、目が悪くなった姫川亜弓の壮絶な練習風景が描かれている。
姫川亜弓は、医者から芝居の稽古をやめすぐに手術を受けるように言われるが、医者に試演までもたせてくれと頼みこむ。医者はこのままで行けば失明の恐れがあり女優を辞めなければならなくなるかもしれないと言うが、姫川亜弓は「『紅天女』抜きの女優としての人生なんて考えられない」と言って手術は受けないと言う。さらに姫川亜弓はばあや以外の人間に目が悪くなった事を悟らせないようにするが、母親の歌子の知る所となる。歌子は亜弓に「紅天女」をあきらめさせようと休館日の劇場に亜弓を連れて行く。人のいない舞台に亜弓をたたせ「紅天女」を演じさせる。亜弓は床に置いてある照明器具に足をとられ何度もこけてしまって演じられない。
しかし、亜弓はあきらめない。
「努力さえすればなんでもかなうってことを……!ゆめをかなえたいのよ ママ この光の中で……!」
歌子は亜弓のこの台詞に根負け、二人は箱根の別荘であたかも目が見えていいるかのように振る舞う練習をする。
歌子が差し出したナイフを亜弓が素手で握りしめる所で45巻は終わっている。

(3)速水真澄と北島マヤ
44巻後半、鷹宮紫織は速水の別荘で速水が北島マヤの「紫のバラの人」であり、速水がマヤを愛している事に気が付く。
一方、速水真澄はマヤと自分が魂の片割れ同士ではないかと疑問を抱き、魂の片割れについて深く知りたくて月影千草の元を訪れマヤと偶然出会うのである。
これが44巻ラストの3人の動向だった。
 45巻冒頭。マヤは月影千草の元で速水と会い、そこで、速水が鷹宮紫織と結婚する事によって将来、鷹通グループ経営陣に就任、さらに総帥の座につくという噂があるという話を月影千草から聞く。
速水は千草を牽制するように「妻の座を利用すればとんでもない出世ができそうだ」と言う。それを聞いたマヤは、もしかしたら速水が魂の片割れではないかと思っていたが、速水の言葉に、やはり魂の片割れではないと思う。速水が自分に関心を持つのは「紅天女」を目指しているからだと思う。
速水もまた、マヤが速水を揶揄する言葉、「これでいつか鷹通のすべてを手に入れるチャンスをつかんだってわけですね…!」の言葉にマヤにとって自分は魂の片割れではなく天敵であるという思いを深くする。

今まで「紫のバラの人」としての速水真澄からマヤは真心を受け取って来たのにここで初めて、速水の真心を疑うのだ。この速水への疑いは対になって登場する。46巻にて詳述するが、速水は鷹宮紫織の罠にかかりマヤを疑ってしまう。マヤの速水への疑いと速水のマヤへの疑いが対となって描かれて行く。
愛と憎しみという対局の感情が二人の世界をさらに完全な物とするのだろう。
愛だけでは完全ではない、憎しみや疑いといった負の感情。両極揃って初めて完全な世界になるのだろう。
美内すずえ先生は速水真澄、北島マヤを通して、完全なる世界を現して行っているように私には思える。

(4)46巻 鷹宮紫織
さて、46巻は鷹宮紫織の巻である。
速水真澄の心にいつも「紅天女」と北島マヤがいると気づいた鷹宮紫織は、速水の心からマヤを追い出そうとする。
そして、マヤに対して様々な罠を仕掛ける。
マヤを喫茶店に呼び出しマヤのバックを叩き落とし、マヤの荷物を拾うふりをして自分の婚約指輪をマヤのバックに入れる。
マヤが指輪を返しに来るのを見越してウェディングドレスの仮縫いの場に速水を呼び出す。
自分からマヤに倒れかかりブルーベリージュースをウェディングドレスにかけさせる。
速水は鷹宮紫織の罠にはまり、公衆の面前でマヤを疑い罵倒してしまう。
速水は後で反省するが、怒鳴られたマヤは速水が鷹宮紫織を愛していると、自分は嫌われたと思う。
愛する人に嫌われる辛さ、苦しみを味わうマヤ。それは、そのまま、速水真澄が今まで北島マヤから受けて来た辛さ、苦しみである。
愛憎が対になり、二人の関係が完全な輪、完全なる二人の世界になって行く過程ではないかと思う。

さて、物語は続く。
速水が鷹宮紫織を含んだ鷹宮一族と会食をしているシーンで、
「速水君はどうかね?
 紫織さんは君を紅天女の恋のように魂の伴侶と思っているようだが」
という問いに対して速水は
「光栄です」
と答える。
同じ女性として婚約者から「光栄です」と言われて喜ぶ女がいるだろうか?
自分が思っているように「彼女は僕の魂の片割れです」と答えてほしいのではないだろうか?
鷹宮紫織のやるせない気持ちは、北島マヤへの八つ当たりとなって現れる。速水の伊豆の別荘から持ち出したマヤのアルバムをびりびりに引き裂いてマヤに送りつけるのだ。「これが最後のバラです」というメッセージをつけて。
落ち込むマヤ。
その夜、マヤは大都芸能を訊ねエントランスで速水が出て来るのを待つ。
大都芸能の社屋を見上げるマヤの切なさに心が打たれる。

一方、鷹宮紫織は、速水と展覧会に行く予定にしていた。
ところが、急な会議で速水は行けなくなる。会議が終われば自分に電話をしてくれると思っていた鷹宮紫織。だが、電話はない。そこで紫織は、夜、速水に直接会いに行く。鷹宮紫織は速水に、電話を待っていた、あなたは仕事以上に紫織を思ってくれないのかと言う。
速水は「お詫びの電話をすればよかった」と答える。
鷹宮紫織はお詫びがほしいわけではないと思う。
恐らく鷹宮紫織は詫びではなく、仕事よりあなたに会いたかったというラブコールが欲しかったのだろうと私は思う。
速水の態度に鷹宮紫織は不満を覚えるが、大人としてそれ以上速水に不満は言わない。
結局速水真澄は仕事をやめ、紫織と一緒に帰る事にする。
二人で1階のエントランスを出ようとした所で鷹宮紫織は口紅を化粧室に忘れた事を思い出し、12階の化粧室に取りに戻る。
速水真澄は先に駐車場へ向かおうと1人エントランスを出た所でマヤに会う。
だが、速水が出て来るのを待っていたのはマヤだけではなかった。
速水にロックグループを引き抜かれた北斗プロの暴漢3人組もまた速水を待っていた。
速水とマヤが話している所に現れる暴漢3人組。
3人が速水を襲う。そして、マヤが巻き込まれてしまう。暴漢3人に殴られながら必死にマヤを体を張って庇う速水。
その姿にマヤは、「速水さんじゃない、速水さんはあたしの舞台写真を破いたりなんてしない……!」と確信する。
1階に戻ってきた鷹宮紫織は、自分の体でマヤを庇う速水の姿を見て、「どうしてそこまであの子の為に」と思う。
そこにガードマンが現れ、暴漢3人組は引き上げる。
鷹宮紫織は気絶して1階の医務室へ、速水もまた気絶して社長室へ。速水に付きそうマヤ。額から血を流しソファに横たわる速水真澄。
傷つき血を流す速水の姿に涙するマヤは速水の額の傷を自分のハンカチでふく。
気絶している速水の額にそっと口付けをするマヤ。マヤの涙が速水の頬にかかる。夢現つに速水はマヤの涙を感じる。
マヤは気絶した速水の側で阿古夜を演じる。気絶した速水に阿古夜の台詞で自らの心情を語るのだ。
速水は完全に意識を失っていない。夢現つにマヤの台詞を聞いている。それは、梅の谷のマヤを思い出させ、夢に阿古夜が現れる。
夢の中で阿古夜の口付けを受ける速水。
そして、去って行く阿古夜に「阿古夜」と叫んで速水が起きると、既に朝になっており、側には鷹宮紫織がいた。
マヤの安否を尋ねる速水に向かって鷹宮紫織は、マヤは怖くなってすぐに逃げてしまったと言う。
速水はマヤが居たように思うがあれは夢だと思う。
鷹宮紫織は一晩中マヤの名前をうわ言で呼んでいた速水に対し、必ず、マヤを忘れさせてみせると心の中で誓う。
ある土曜日の朝、速水は暴漢に襲われた時の事が忘れられない。阿古夜の台詞を聞いたように思い、マヤの唇を感じたように思う。
そんな中、鷹宮紫織から招待状が届く。招待状には、素敵な所に招待したい、夕方5時に迎えをやるから携帯を置いてその車に乗ってほしいと書かれていた。
鷹宮紫織は速水に招待状を送る一方でマヤを速水から遠ざけようと画策する。
黒沼龍三とマヤの元に鷹宮紫織の使い、滝川が封筒を持って訪れる。
滝川はマヤに速水や紫織に近づかないよう告げる。また、黒沼にマヤを管理するように言う。そして封筒を置いて帰る。
滝川が帰った後、封筒を開けて二人は驚く。1000万の小切手が入っていたのだ。
カンカンに怒った黒沼は鷹宮紫織の居場所を鷹宮邸に確認。マヤに小切手を返しに行くように言う。
同時刻、速水は会議で会社に出社している。
5時、鷹宮家からの迎えの車に乗ろうとしている所で、警備員から社長室に落ちていたというハンカチを受け取る。
血のついたハンカチにマヤの物ではないかと思うが、その場は胸ポケットに入れたまま鷹宮家の車にのる。
そして、着いた先は港だった。港には一隻の豪華客船が停泊していた。アストリア号。
船に乗り、ホテルマネージャーの説明を受ける速水。そこで初めて鷹宮紫織が自分をワンナイトクルーズに招待したと知る。
ロイヤルスィートルームに通される速水。そこで速水が見たのは、『ダブルベッド』だった。豪華な部屋の真ん中に鎮座するきらきらと輝く『ダブルベッド』。瞬間、速水は扉を叩き付けるように閉めると部屋を出ていた。速水は船をおりようと足早に出口に向う。
そして鷹宮紫織を探しに切符を持たずに船に乗り込みクルーから手荒に摘み出されそうになっていたマヤと出会う。
一方、鷹宮紫織は高速道路で渋滞に巻き込まれてしまう。
そして、6時、出港のベルが鳴る。乗り遅れる鷹宮紫織。
アストリア号は速水真澄と北島マヤの二人を乗せしずしずと港を出て行った。ワンナイトクルーズの旅へと。

これが46巻である。
ここには演劇スポ根漫画の片鱗はない。鷹宮紫織の愛憎劇が繰り広げられている。
鷹宮紫織の堕ちた所行に比べ速水真澄の行動の清廉さが際立つ巻である。
45巻冒頭において速水の真心を疑ったマヤが、46巻後半、もう一度速水の真心を信じる。
魂の片割れを求めて彷徨うマヤの心の軌跡が45巻、46巻を通して描かれ、そして47巻「めぐりあう魂」へと続いて行くのである。
尚、蛇足ではあるが、47巻について一言。
47巻、速水真澄がマヤの気持ちを知る事で互いに相思相愛となり、完全なる円、完全なる二人の世界が成立すると思われる。47巻において完全なる円は太陽という形で象徴的に表現されている。詳細については47巻のレビューに譲る。





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