這い上がる
速水真澄は深夜、胸が苦しくて目が覚めた。
どこからともなく女のすすりなく声がする。
――なんだあの声は……
真澄は夜の庭に出ていた。新月なのか、庭は暗い。
庭の片隅に井戸がある。
枯れ井戸なので、上から蓋をしてあるのだが、声はどうやらそこからするようだ。
真澄は井戸に近づいた。すすり泣きがだんだんはっきりして来る。
――そんな、馬鹿な!
真澄は蓋を持ち上げ、井戸の底を覗き込んだ。
「ま〜す〜み〜さ〜ま〜〜〜、い〜ま〜、お〜そ〜ば〜に〜〜〜〜」
そこには、髪を振り乱し、びしょぬれになって井戸の壁を這い登る鷹宮紫織のおぞましい姿があった。
終
最後まで読んでいただきありがとうございます。
読者の方のコメントに「どん底から這い上がる紫織」という言葉があって、それで思いつきました。
絵チャに参加された方達がめちゃくちゃ楽しい絵を書いてくださいました。蓋に釘をうつ社長です。^^
読者の皆様へ 心からの感謝を込めて!