「かりんの冒険 Part3 」



 私はまたしても、「ガラスの仮面」の世界に入り込んでいた。

私は手を、服装を確認する。OK。大丈夫。裸でもないし、桜小路でもない。私はほっとした。

今回、私を「ガラスの仮面」の世界へ送り込んでくれたのは、魔女ではなく魔法使いだった。
私は魔女様が出て来ると思って「ホームエステ QT100」を用意して待った。
所が、現れたのは魔法使い。それも、ばりばりのカントリージェントルマン。イギリス人だった。
シルクハットに傘を持ち、ダンディーに決めた初老の紳士。
唖然と見守る私に紳士は一言。

「お茶をいただけるかな、お嬢さん」

その一言で私は我に返った。
私は、あいまいな返事をするとキッチンに飛んで行った。

――ホントにまあ、イギリス人っていうのはお茶が好きなんだから。えーっと、紅茶、紅茶。

なかなか出て来ない紅茶の缶。やっと取り出したと思ったら、床にぶちまけた。
掃除は後にして、缶に残った葉っぱ、ポットに残ったお湯であわてて紅茶を入れた。
紅茶をお盆に乗せ、魔法陣を書いたリビングに戻ると、いない。
せっかく苦労して呼び出したのに!!!

リビングの床にメモが落ちていた。


  「紅茶の銘柄はダージリンにして頂きたい
       魔法使い サー・ジョージ・トーマス・ブラックフォード」


残念!魔法使いは帰った後だった。待たされるのはなれていないのだろう。
仕方なく私は、キッチンの掃除をして、次の新月を待った。今度はきちんとダージリンを用意して魔法使いを呼び出そうと思った。

そして、新月の日。私はリビングで魔方陣に向かって呪文を唱えた。 またまた、現れた魔法使い。今日はフロックコートを着ている。肩に雪がかかっている所を見ると、向うで雪遊びをしていたらしい。
私を見ると、彼はやはり一言。

「お茶をいただけるかな、お嬢さん」

私はすぐさまお盆を差し出した。お盆の上にはダージリンを淹れたティーカップが乗っている。

「ふむ、少し醒めているが猫舌の私にはちょうどいい。ま、合格としよう。これ以上、私の生活の邪魔をされても困るからね。で、何が望みかね?」

「私を『ガラスの仮面』の世界へ連れて行って下さい。今、大変な事になっているんです」

「ふむ、世界はどこでも大変だよ。君が行った所であの世界は変わるまい。それでも行くかね」

「ええ。だって、何かせずにいられないんです」

「そうか……」

魔法使いは私の前で傘をくるりと振った。

次の瞬間私は「ガラスの仮面」の世界に入り込んでいた。

あたりを見回すと、どこかのお屋敷のようだ。
私は窓から外を見た。夜だ。どこかから男の笑い声がする。声のする方に近づくとなんと速水英介ではないか!

「鷹宮会長が孫娘可愛さに……」

――あんの鬼畜野郎!

一言言ってやろうと思ったが、それより、速水さんが気になった。
私は廊下を走った。

――速水さんの部屋はどこ?

ガシャーン

遠くで何か物が壊れる音がした。

――あ! あれは、ウィスキーグラスが割れる音……

私はある部屋の前に辿り着いていた。思わずドアをノックする。

「誰だ?」

――えーっと、えっと……

「あの、グラスが割れる音がしましたので……」

ドアが空いた。

「なんだ、パックか」

「え!」

速水さんが私の脇の下から手を入れて高い高いをしてくれた。

「え?え?え?」

「どうしたパック? 餌がほしいのか?」

私ははっとして後ろを振り返った。そこには鏡があった。私と速水さんが映っている筈なのに、そこには、疲れきった男が茶色のヨークシャーテリアを抱き上げている姿が映っていた。

――えええ、今回は犬かい! 犬? いぬ〜〜〜〜〜!!!!
  あの魔法使い! 私が真澄様に会ったら、ヨークシャーテリアに変身する呪いをかけていたのね!!

もちろん、私は犬として真澄様に親愛の情を示しましたとも!

無我夢中で尻尾を振り……

真澄様の唇をペロペロと!!!









最後まで読んでいただきありがとうございます。
「かりんの冒険」Part3です。本誌「別冊花とゆめ 2011年10月号」があまりに暗い展開なので楽しい話をと思って書いてみました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
読者の皆様へ 心からの感謝を込めて!




web拍手 by FC2       感想・メッセージを管理人に送る






inserted by FC2 system