「星空に抱く」番外編  「リズム」  




「速水さんの変態!」

結婚したばかりの新妻から名字で呼ばれた。その上、変態呼ばわり。あんまりじゃないか、夫に向って……。
満天の星空の下、ここは沖縄。新婚旅行先のホテルだ。
俺はマヤの手を取り特別にしつらえさせたバルコニーのベッドに彼女を導いた。畳20帖程もあろうかというバルコニーの一画に白いシーツで覆われた寝台がある。寝台の上にはハイビスカスの花。白いカーテンで仕切られた美しい寝台。初めてマヤを伊豆で抱いてから4ヶ月。そろそろ、喜びがわかってきた頃だ。俺は大自然の中でマヤを抱きたかった。
だが、彼女の反応は「変態!」だった。

「どうして外でしたがるの?」

「何故、外でしてはいけない?」

「だって、だって、誰が見ているかわからないじゃない」

「あのな、マヤ、ここは沖縄の離島で、周囲5kmには誰もいない。もちろん、ホテルのスタッフはいるが、大した人数じゃないし、彼らは俺達の邪魔はしない。それに、ベッドの周りはカーテンとバルコニーの手摺で仕切られていて、外からは見えない」

「でも、あ、あたしは、恥じらいってものを知ってるんです!」

「……だったら、しなくていいから……、ここに横になってご覧」

「じゃあ……」

マヤは渋々、俺の隣に来て横になった。

「わあー」

「な、凄いだろ!」

周りの照明を消しているので星明かりだけだ。星空の下で横になると満天の星に抱かれているみたいだ。潮騒の音。亜熱帯の湿度を含んだ風。潮と緑の香り。大自然に包まれる喜び。俺は着ていたガウンを脱いだ。気持ちがいい。ベッドの上でのびをする。マヤが俺の方をちらちら見ている。

「あ、あたしは脱ぎませんからね」

「ふーん」

「そんな目で見たって駄目なんだから……」

「マヤ、阿古夜の台詞であったな、俺達は大自然によって生み出された物だと……、大自然によって生かされていると……。ここでしたら、大自然と一体になれるような気がしないか?」

「そ、そうかな」

「ああ、とにかくしなくてもいいから、脱いでご覧、下着は着てていいから」

「え、だってさっきは横になるだけでいいって!」

「何事も経験。大丈夫、誰も見てないから……」

マヤは渋々、ガウンを脱いだ。俺はしまったと思った。

「それ……」

「ふふふ、このランジェリー素敵でしょ」

ストラップレスの白のビスチェ。胸の真ん中に青いリボンがワンポイントでついている。星明かりに白が浮き立つ。こんなセクシーな物を見せられてお預けか!

「……マヤ、それ、暑くないか?」

「はは〜ん、脱がせたいんでしょ。これから、部屋の中に入るなら脱いであげる!」

マヤ、君は一体いつから女としての魅力に目覚めた!

「そんな事言っていいのか、捕まえて脱がせちゃうぞ!」

俺はマヤを捕まえようと手を伸ばした。さっと身をかわすマヤ。あっという間に四つん這いになって、バルコニーの手摺に飛び乗っていた。さすが、狼少女。その上、なんてセクシーなんだ。手摺の上で猫のポーズを取る君。ビスチェの間からこぼれそうな胸にくらくらだ。捕まえる! 絶対、捕まえるぞ!

「反則だ! ベッドの外だ!」

「そんなルール、ないもん!」

と言いながら、それでも、マヤはベッドに降りて来た。俺は腕を伸ばして捕まえようとした! いつのまにか、俺まで四つん這いだ。この体制は不利だ。不利だが……。くそ、後少し! 誘うように体をくねらすマヤ。きわどい所で俺の手をかわす。右に左に飛び回る。このベッド、キングサイズの筈なのに! なんだ、この広さは! 俺は、思いっきりマヤにダイブした。

「べーっ!」

マヤはあっという間にすりぬけて、俺の背中に飛び乗っていた。

「はあ、はあ、マヤ! はあ、降参、降参」

俺は肩で息をしながら、白旗がわりに右手でベッドを叩いた。

「じゃあ、部屋に入る?」

マヤは俺の耳に唇を寄せて囁く。俺はくるっと反転して、マヤを組伏した。

「あ! ずるい!」

「お子様の時間は終わりだ」

「や! だめ! 速水さん、だめっうむむ……」

マヤの唇を俺はキスで塞いだ。マヤの手は俺の体を突っぱねようとしていたが、俺のキスを受け入れるにつれ、腕の力が抜け、やがて、俺の首に回された。マヤの体が柔らかく溶ける。唇をそっと離し、俺はマヤの胸元に唇を押し当てた。ビスチェの上にわずかにでている胸の膨らみ……。舌を這わせると塩辛い。汗なのか、潮なのか。そっと吸ってみる。マヤが体をふるわせた。俺は顔を上げるともう一度マヤの唇に深く口付けをした。

「……マヤ、君を抱きたい。してもいいか?」

マヤが喘ぎながら「駄目……」と小さく囁く。

「本当に?」

「……、あ……、いじわる……」

俺はそっと、ビスチェを脱がせた。マヤの肌が露(あらわ)になる。俺は、マヤのしっとりと汗をかいた肌に、肌を合わせた。全身が総毛立つ。俺はもう一度深く口付けした。そして、ゆっくりと唇を這わせて行った。


外で裸になる緊張感がマヤの反応を普段とは違った物にしている。新鮮だ。新婚旅行に相応しい。マヤ、抱いてやる。何度でも。

「真澄さん、あ! ああ……」

「マヤ、……あなたと、……あなたと呼んでくれ!」

「……あなた、……あ、あ!……」

大地と海と空のリズムに俺は身をまかせる。

マヤ!

愛している!












あとがき



最後まで読んでいただいてありがとうございました。原作では好きだとも愛しているとも言わない二人。そんな二人ですが、せめてパロでは思いっきり愛し合ってほしい。そんな思いで書きました。楽しんでいただけましたでしょうか? ^^ 読者の皆様へ、感謝を込めて!




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