高校生マヤタン 



 高校生マヤタンは速水先生が大大だ〜いすき!
でも内気なマヤタンは、好きになればなるほど、顔が上げられません。
先生の前ではいつも俯いてばかり。
でも、演劇部でお芝居をしている時は別人になれます。
脚本は一度で覚えてしまいます。
役になりきったお芝居が出来ます。

物理の速水先生は、そんなマヤタンが大好きでした。
でも、立場上、高校教師が一女子生徒に懸想するなどとんでもありません。
自分の気持ちを隠す為につい、マヤタンに辛くあたる速水先生。
速水先生は自己嫌悪に陥ります。
マヤタンの為に何かしてやりたいと思った速水先生は、成績の悪いマヤタンの為に物理の教科書を脚本にする事を思いつきました。
早速、パソコンに「第1章 電気」を入力する速水先生。
休日を返上して徹夜で書き上げました。
が、プリントアウトしようとして、黒のインクがきれている事に気が付きました。
仕方が無いので文字を総て青にしました。ところが、印刷された文字は総て紫だったのです。速水先生は困りましたが、時間がなかったので、それをホッチキスで留め製本しました。すでに朝です。速水先生は誰もいない内にと思って、マヤタンの靴箱にこっそりと脚本を入れました。

そんな速水先生に憧れる聖唐人君。成績優秀、品行方正、生徒の鏡の聖君。
聖君は速水先生が下足室から出て来る所を偶然見てしまいます。
最初は、先生が何をしたか気が付きませんでした。
しかし、同じクラスのマヤタンが、友人の青木麗に「こんなのが靴箱に入ってた」と言うのを聞いてはっとします。さっそく、聖君はマヤタンに頼みます。

「マヤタン、そのノート見せて!」

「うん、いいよ」

聖君がマヤタンのノートを見ると、それは、脚本化された教科書。
先生と生徒のやりとりの中に教科書のツボが網羅された物理の教科書でした。
聖君は総てを察しました。

一方マヤタンは紫の文字で印刷された脚本に大喜びです。
これなら1回読めば暗記出来るとマヤタンは早速読み始めます。
最初に、マヤタンへのメッセージがありました。

「いつも素敵なお芝居を見せてくれてありがとう。でも、勉強は得意じゃないようですね。少しでもあなたのお役に立てればとこういうノートを作りました。これを丸暗記すれば、赤点は免れる筈です。がんばって下さい。あなたのファンより」

「麗、麗、『あなたのファンより』ですって! 素敵! あたし、この人の事『紫のノートの人』って呼ぶわ」

そんなマヤタンを横目に聖君は速水先生の元へ行きました。

「先生、先生がマヤタンに物理の教科書の脚本を書いたんですね。僕に手伝わせて下さい。物理の本だけでは、先生とすぐにバレてしまいます。生徒を依怙贔屓したってわかったら教育委員会が黙ってません。お願いです、先生」

速水先生は慌てました。速水先生は聖君の提案を受け入れ一緒に脚本作りをする事にしました。聖君は幸せです。憧れの先生と秘密を共有するのですから。

そして、半年が経ちました。
マヤタンは速水先生と聖君が密かに作った脚本で、そこそこ勉強が出来るようになりました。
聖君も憧れの先生と一緒に脚本作りが出来て幸せそうです。

だけど、事件が起きます。
速水先生に見合いの話が来たのです。聖君はびっくり。

そして、ある夕方。
いつもと同じように先生の脚本作りを手伝う聖君。
普段から無口ですが、今日は一段と無口です。

――先生は見合いをされるんだろうか?

そんな思いが頭を駆け巡ってなかなか作業がはかどりません。
速水先生は聖君の調子が悪そうなので、声を掛けました。

「聖、どうした? 今日は調子が悪そうだな? やめとくか?」

「あ、はい、先生、すいません」

「いや、いいんだ。作業を手伝ってもらって助かってるんだ」

「先生、あの、あの……、見合いされるって、本当ですか?」

「うん? 誰から聞いた?」

「あの、噂で……」

「そうだな、そろそろ身を固めんといかんからな」

「で、見合いされるんですか?」

「俺が、誰と見合いしようと関係ないだろ」

「でもでも先生は、マヤタンがお好きなんじゃ……」

「いや、俺は別に……」

速水先生が珍しく煙草に手を伸ばします。先生はヘビースモーカーですが、生徒の前では吸いません。それほど、速水先生は動揺していました。

「聖……。君にはお見通しだな。だが、教師と生徒だ。仕方ないよ」

「先生、そんな事ありません。マヤタンは17歳です。法的には、け、結婚出来ます!」

「くっくくくく、いや、失礼、君があんまり一生懸命なのでね。
 結婚できるかどうかではなく、同じ学校に通っているのが問題なんだよ。彼女が卒業するまでまたないといけないんだ。後1年半もある。その上11も年上だ。それに俺は……、彼女に嫌われている。彼女は、ボーイフレンドの桜小路と付き合うようになるだろう。俺は……。いいんだ、もう……」

「いけません、先生。先生の恋はそんな事であきらめられる恋なんですか? それに、他に好きな子がいるのに見合いをしたら、先方に失礼じゃないですか?」

「ああ、だが、しかし、親父のいいつけでね。それに、相手が俺を気に入ると決まったもんでもないし……」

「お相手はあの鷹宮理事長のお嬢さんだって聞きました」

「ほう、よく知ってるな、聖。……そうだ、鷹宮理事長のお嬢さんだ。紫織さんと言ってね。病弱だが、しっかりした人らしい。見合い写真を見たが、なかなかの美人だ。今年女子大を卒業したそうだ。優しそうだし……。それに彼女と結婚すれば、将来の理事長の椅子は約束されたようなものだしな」

「先生! そんな、理事長の椅子に目がくらむなんて! あんまりです! 速水先生、僕は、僕は、先生に失望しました!」

聖君は思わず立ち上がって叫んでいました。

「好きな子の為にこんな凄い脚本作れる人なんだって! 好きな子の為にこんなに一生懸命になれる人だって僕は思ってました。それを、それをあっさり諦められるなんて……。僕は、僕は、先生に失望しました」

聖君はそこまで言うと、物理準備室を走って出て行きました。速水先生は聖君を呼び止めましたが、聖君には聞こえません。聖君はそのまま、走って裏の林に向かいました。泣き顔を人に見られたくありません。

ところが、林の中には先客がいました。マヤタンです。マヤタンも泣いていました。聖君に驚きます。

「マヤタン! どうしたの? 何、泣いてるの?」

「あ、あたし、悲しくて泣いてたの……。聖君こそ、どうしたの?」

聖君はそっぽを向いて涙を隠します。

「ぼ、僕は……、君からいいなよ。泣いてたわけ……」

「あたし? あたし、速水先生が好きなの! 先生がお見合いなさるって聞いて、あたし……、それで、泣いてたの……。聖君はいいよね、いっつも先生に褒められて。先生の作業を手伝えるし……。あたしは、あたしは、落ちこぼれで、『紫のノート』がないときっと、落第してる」

聖君はびっくりしました。

「君は……、先生を嫌ってるんじゃないのかい?」

「ううん、嫌ってないよ。先生はあたしを嫌いだけどね」

「どうして、先生が君を嫌っていると?」

「だって、あたしに辛くあたるもん。先生、他の生徒には嫌味いったりしないのに……。でも、あたし、先生がね、優しい人だって知ってるの。あたし、1年の時、遅刻しそうだから公園を突っ切って行こうとしたら、野良犬がいて、怖くて動けなくなった時、速水先生が、助けてくれたの。野良犬を追っ払ってくれて……。それからずっと好きなの。あんまり好きで、先生の顔をまともに見られなくて、よけい、先生をいらいらさせてるの。わかってるの。でも、でも、あたし先生が好き。それなのに、先生がお見合いしちゃう……」

聖君は思いました。

――両想いだったんだ、二人は……。それなのに……。

聖君は迷いました。マヤタンに先生はとっても君が好きだよって言ってやりたかったのです。君の「紫のノートの人」だよって……。でも、それは速水先生の役目です。

「で、聖君はどうしたの?」

マヤタンは優しい子です。いつも冷静な聖君の様子がおかしいのに気が付いていました。

「僕は……、僕も失恋したのさ、いや、僕の場合、最初から望みはなかったんだけどね」

「フーン、聖君かわいそう」

「大丈夫だよ、僕は。じゃあ、君は桜小路君とはどうなの?」

「桜小路君? 彼はただの友達だよ。お芝居一緒にやってるから。それだけ……」

聖君は思いました。

――ああ、ここに先生がいたらいいのに……。お星様、先生をここに呼んで下さい!

そして、聖君の願いは聞き届けられたのです。聖君を追って来た速水先生が林の中から出て来ました。

「聖!、チビちゃん!」

「先生!」 

「速水先生!」

マヤタンは真っ赤です。告白を聞かれたと思ったのです。
逃げ出しそうになったマヤタンを速水先生は、腕を伸ばして捕まえました。
その様子に聖君はそっと林の中に姿を消しました。

「チビちゃん、君は桜小路を好きなんじゃないのか?」

「せ、先生! 先生、離して下さい」

「嫌だ」

「あたしが誰と付き合おうと関係ないでしょ」

「いや、関係ある。俺は……、俺も君を……」

「……!」

マヤタンは振り返りました。驚いて口も聞けません。

「今……、なんて?」

「好きなんだ、君を……。君に……、『紫のノート』を作って贈っていたのは、俺だ。聖と二人で作っていたんだ」

「うそ!」

「嘘じゃない。俺は、不器用な人間だ。それに、教師が生徒に想いを寄せるなんて言語道断だ。だから、君に辛く当たった。すまない、マヤタン。それなのに君は俺を……。俺は君に嫌われていると思っていた。だから、見合いをして忘れようと……」

「先生……」

こうして想いを打ち明け合った二人は、とっても仲良くなりました。でも、人前ではいつも通り。速水先生はマヤタンに嫌味を言うし、マヤタンはずっと俯いて先生と目を合わさないようにしてます。
でも、二人の携帯を覗いてみれば……。


紫のノートの人より 未来の大女優へ
 おはよう、早く起きないと遅刻するぞ!

未来の大女優より 紫のノートの人へ
 起きれました! 嫌味虫さん! 今日は朝から発生練習で河原に行きました!

紫のノートの人より 未来の大女優へ
 そうか、残念だ。君の声が聞きたかったのに!

未来の大女優より 紫のノートの人へ
 毎日、行きますよ。あたしも遠くから姿が見たいです!(ハート)



もう、ラブラブ!!!!

速水先生はお見合いの話をきっぱり断りました。

「自分の嫁さんくらい、自分で見つけます」

とお父さんにいいました。お父さんは怒りましたが、速水先生の意志はとっても固かったので、とうとう諦めました。

ところで、聖君はどうなったでしょう。聖君はそんな二人ととっても仲良し。マヤタンに「紫のノート」を届けるのが聖君の役目です。この頃、聖君は桜小路君からジト目で見られます。桜小路君は聖君の事を誤解して嫉妬しています。でも、聖君は平気! 大好きな速水先生の恋の手助けが出来る! 大好きな速水先生にお使えする! 聖君はもともと羊、いえ、執事タイプの人間だったのです。聖君は生き甲斐を見つけたのでした!

めでたしめでたし









最後まで読んでいただきありがとうございます。
高校生のマヤと物理の先生設定の速水さん。ツィッターで他のガラパロ作家さん達と話している時に思いつきました。最初、ミステリーにするつもりで書いていたのですが(それも殺人事件)トリックを考えるのが無茶苦茶大変で、そこから一歩も進まなくなってしまいました。で、ほのぼの系でまとめてみました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
読者の皆様へ 心からの感謝を込めて!




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