ビキニとサングラス 





 マヤは身につけたビキニをもう一度、鏡に映して見た。

――速水さん、変に思うかな。ビキニなんて……。

マヤは迷った挙げ句、付属のスカートを履いた。

――うん、これなら、ビキニっぽくない!

マヤはほっとして、パーカーをはおった。鏡に映して見る。おへそは見えているけど、スカートのおかげで可愛いらしさが強調され、裸のイメージから遠い。

――海に入る時だって、パーカー着ててもいいし……、日除けって言ったらいいもの。

こんな事なら、ビキニなんか買うんじゃなかったとマヤは思った。白地に花柄のビキニ。同じ生地のシュシュがついている。マヤはシュシュがついているお得感に誘われた。麗に見せたら、可愛いと言ってくれたのでマヤは安心して持って来たのだが……。沖縄のホテルでこの水着に着替えたら、どうしたらいいのかわからない程、恥ずかしくなった。しかし、他に水着はない。

「マヤ、どうした? 着替えたか?」

ドア越しに真澄の声がする。マヤは飛び上がった。

「あ、大丈夫です! 今、行きます」

マヤは帽子とバックを取り上げるとドアを開けた。速水真澄が立っていた。

――うわっ、サングラスの速水さんだ! それに、それに、海パンにアロハシャツ! きゃあー、裸の胸!

マヤは顔を赤らめて下を向いた。
真澄はマヤのそんな様子にふっと笑う。

「支度が出来たなら、ビーチに行こう」

沖縄のこのホテルは、8階建ての客室棟とスィートルームのコテージが並ぶエリアとに別れていた。コテージはほとんどが平屋だが、一部は2階建てになっている。本来、上下別々の宿泊客が泊まるのだが、秘書の水城は1階に速水を、2階にマヤが泊まれるよう手配していた。

二人はコテージエリア専用のビーチに着くとさっそく、パラソルの下に陣取った。真澄はあっさりとアロハシャツを脱いだ。

「マヤ、ほら、背中を出せ、日焼け止めを塗ってやる」

マヤは焦った。日焼け止めを背中に塗ってもらうにはパーカーを脱がなければならない。
パーカーを脱ぐと、ビキニのブラだ。マヤは決心してパーカーを脱いだ。真澄に背中を見せる。髪を右手でかき揚げ、項を晒す。
真澄は、マヤの背をみて一瞬、肌の白さにたじろいだ。しかし、黙って日焼け止めクリームを手に取ると、マヤの背中に塗り始めた。マヤは恥ずかしさに背中まで赤くなっているのだが、真澄は気がつかないふりをしている。マヤは真澄の手が自分の裸の背中をなでるのを意識した。
日焼け止めクリームがひんやりとしているからなのか、マヤは真澄の手が自分の背中を滑っていくのを心地いいと思った。

――速水さんの手……、大きくて優しい……

それでいて、真澄が何の気負いもなく、自分の背中に日焼け止めを塗れるのは、きっと、自分をチビちゃんだと思っているからなのだろうと、女性として意識していないからだろうと思った。
真澄は婚約を解消した。マヤは、あんなに素敵な紫織さんと何故と思ったが、理由は聞かなかった。真澄も言わない。

――なんとなく速水さんが、あたしを食事に連れて行ってくれるようになったんだ。
  あたしは、速水さんと一緒にいられるのが嬉しくて、そのまま速水さんと付き合っている。
  速水さんは雲の上の人、きっと「紅天女」の上演権をあたしが持ってるから……。
  でも……。

マヤはそれだけではないような気がするのだ。なんといっても、真澄は「紫のバラの人」なのだから……。

「ほら、マヤ、後は自分でやれ」

背中を塗り終わった真澄は、ややぶっきらぼうに日焼け止めクリームの容器をマヤに投げる。
マヤはクリームを手に取ると真澄に言った。

「速水さん、今度はあたしが、背中に塗ったげます」

真澄は何も言わずに、背中を向けた。マヤは日焼け止めクリームをたっぷり手に取ると真澄の背中に塗り始める。

――おっきいなあ。

マヤは真澄の背中を見て、大きいと思った。

「速水さんの背中、おっきくて、塗りがいがあります」

「君の背中は小さくてあっというまだったな、足や腕にもよくぬっておけよ。後で、ひりひりするぞ!」

「あたしだって、それくらい知ってます。速水さんこそ、ちゃんと塗ったんですか?」

「ああ、俺は部屋で自分で塗れる所は塗ったんだ。後は背中だけだったんだが、それも君が塗ってくれてる」

マヤは真澄の背中をパチッとたたいた。

「はーい、終わりましたよ! シャチョー」

「マヤ、シャチョーはやめてくれ!」

「だって、シャチョーじゃないですか!」

マヤは日焼け止めクリームを足に塗りながら言った。足首や爪先に塗りこむ。

「シャチョーと言われると、仕事を思い出す。今回の旅行は仕事を忘れるのが目標だ!」

マヤは怪訝そうな顔をした。

「仕事ってそんなに忘れられないものなんですか?」

「……、君は演技の事を忘れられるか?」

「うーん、いいえ……、でも、オフの時は、次の芝居が決まるまでは、あんまり考えてないです」

「あんまりだろ、俺もそうだ。忘れようとしながら、どこかで考えている」

日焼け止めクリームを塗り終わったマヤはビーチボールを手に取ると、真澄に軽く投げた。

「だったら、さっさと思いっきり遊びましょう! ね、シャチョー」

「こら!」

マヤは笑いながら駆け出した。後を追う真澄。二人は砂浜でビーチボールを投げ合い、バシャバシャと波打ち際を走った。マヤは波の冷たさに誘われて、海に入った。腰までつかって、さらにボールを真澄に投げる。
が、ボールは真澄を大きくそれ、波の上へ。真澄が取ろうとしたが、波と風がボールを沖合へと運んだ。

「あーん、あのビーチボール気に入ってたのに!」

「仕方が無いだろう、君の暴投だ」

「だって、波に足を取られたんだもん」

ビーチボールは沖合に流れて行き、ぽっこりと浮かんだ小さな島に流れ着いたのが浜から見えた。

「あの島まで行ければいいんだがな。そうだ、カヤックを貸していたな。カヤックであそこまで行ってみよう」

二人はカヤックを借りに行った。係員が言う。

「あの島の周辺は珊瑚礁になっていて、水の透明度も高くて、絶好のシュノーケーリングのスポットですよ。ついでにどうです?」

二人は係員に勧められてシュノーケルをして遊ぶ事にした。係員はさらにライフジャケットを二人に渡した。

「ライフジャケットは必ず、身につけて下さい。安全の為です。
 島はこちら側からは岩ばかりに見えますが、島の反対側に小さな入江と砂浜があります。
 そこに上陸すればいいでしょう。
 こちらは、サービスのサンドイッチです。水とタオルを忘れずに持って行って下さい。
 今日、あの島に行くのはあなた方だけです。貸し切りですよ。楽しんで来て下さい」

マヤは念の為、長袖のパーカーの上からライフジャケットを着た。ジッパーを上げ、あちこちの留め具をかけて行く。マヤは左の肩に笛がついているのを見つけた。

「速水さん、見て! 笛がついてる!」

「遭難した時、これで救助を呼ぶんですよ。映画『タイタニック』のラストでも笛を吹いていたでしょう」

マヤは係員の話に多いに納得した。目を丸くして何度も頷く。真澄はマヤの様子を目を細めて見ている。

カヤックは二人乗りだ。真澄はタオルを入れたビーチバック、水とサンドイッチの入ったクーラーボックスをカヤックに積んだ。真澄はマヤを前に座らせるとカヤックを押し出した。

海の上に出ると、真澄は要領よくパドルを動かした。
マヤもまた、カヤックを漕ごうとしてパドルを振り回したのだが……。

バシャ!

水飛沫が跳ね上がる。真澄はびしょ濡れになった。

「マヤ! 君はカヤックは初めてか?」

「はい」

マヤはパドルを振り回しながら大声で返事をする。

「もっと、パドルを海水につっ込むんだ。海水の表面だけたたいてるぞ。おかげでおれは、水浸しだ!」

「えー、そうなんですか?」

マヤは振り返った。頭から水を滴らせている真澄がいる。

「ごめんなさ〜い!」

「いいか、こうやって……」

真澄はマヤに手本を見せる。

「わかっていると思うが、曲がりたい時は曲がりたい方向の反対側を漕ぐんだぞ」

「え? え? え! 曲がりたい時? 曲がりたい時って? 方向が反対?」

「ああ、もういい、俺の言った通りに漕ぐんだ。右、左、右、左……」

「横暴!」

「何が横暴だ、それより、海水の表面をたたくな、飛沫が後ろに来る!」

「そんな事、言ったって!」

マヤはパドックと格闘するが、なかなか、うまく扱えない。

「頼む、俺の言った通りに漕いでくれ、カヤックが前に進まん!」

マヤは、あれこれ言われてパニックになりながらもパドルを漕いだ。真澄はびしょ濡れになりながらもカヤックを前に進め、二人はなんとか目的の小島についたのだった。

ビーチボールは波に寄せられて岩の間でぷかぷか浮いていた。二人はビーチボールをひろい、カヤックで島を回った。その島は、係員が言ったように反対側に回ると、小さな入江と砂浜があった。そこにカヤックを寄せて、二人は島に上がった。

「へえ、この砂浜、かわいい!」

「マヤ、こっちの岩場が日陰になって涼しいぞ!」

ライフジャケットを脱ぎながら真澄は岩場に腰を下ろした。マヤもまたライフジャケットを脱ぐ。
マヤはパーカーも脱いだ。海の開放感がマヤからビキニを着ている恥ずかしさを吹き飛ばしていた。
真澄はペットボトルから水を飲んだ。たっぷり海水を浴びた後なので、真水がうまい。真澄はそのまま、マヤにボトルを渡した。
マヤははっとした。

――間接キスになるけど、いいのかな?

一瞬ためらったが、マヤはボトルから水を飲んだ。

――速水さんと間接キスしちゃった!

マヤは頬をぽっと赤らめた。
二人は係員から渡されたサンドイッチをぱくついた。
海の水はあくまで透明で、波頭は白い。二人は、日陰になった岩場に座って、ぼーっと海を見た。慣れないカヤックを漕いだのでさすがに疲れていた。
真澄はマヤの横顔を眺めた。

――マヤ、君は、俺をどう思っているんだ?
  俺の休暇に何故、付き合う気になった?

真澄は、マヤを沖縄に誘う気はなかった。伊豆に誘ったのだ。伊豆の別荘で気持ちを打ち明けようと思っていた。ところが、伊豆についてみると黒沼組が大挙して伊豆に来ていた。真澄はマヤを近くのホテルに泊める予定にしていたのだが、そのホテルに黒沼組が来ていたのだ。別荘にマヤだけを招くわけにはいかない。真澄にとって別荘は聖域だった。黒沼組を招待するつもりはなかった。仕方なく真澄はホテルの宴会場を借りて、そこで慰労会と称して飲み会を開いた。マヤが劇団仲間と楽しそうにしているのを見た真澄はマヤが楽しいなら、それでいいと思った。

「速水さん、シュノーケルしましょう」

マヤの声に真澄は、はっと我に帰った。

「ああ、そうだな、君はシュノーケルは初めてか?」

真澄はマヤに道具をつけさせ使い方を説明した。さらにライフジャケットを身に付けさせる。真澄はライフジャケット無しで海に飛び込んだ。マヤも後に続く。

マヤは波に浮かぶと、フィン(足ビレ)を使って砂浜を離れた。ゆっくりと泳ぎながら海の中をのぞく。目の前を熱帯魚が泳いで行く。初めて見る海の底の風景にマヤは夢中になった。ブルーグリーンからブルーへ。透明な水。真水のような海。原色に彩られた鮮やかな熱帯の魚達。銀色にきらめく鱗。ゆらゆらと揺れる海藻。珊瑚の先が青く光る。波の下で反射する光の幻想。海の世界の美しさにマヤはうっとりとする。
真澄が底の方で立ち泳ぎをしているのが見えた。どんなに美しい魚も真澄の美しさには適わない。海の中を自在に泳ぐ真澄。真澄の柔らかな髪が水の中でふわふわと揺れている。

真澄が息つぎに水面に登って来た。ピューッとシュノーケルから水を吹き出す。息を継ぐと真澄はもう一度、潜った。水の中からマヤを見上げ、魚達を指差す。マヤが真澄の指の先を見るとクマノミが珊瑚の中を泳いでいるのが見えた。

真澄は水中からマヤを見上げて思った。

――俺の人魚、いや、半魚人か……

手にやりをもたせて、魚をくわえさせたら似合うだろうと真澄はそんな妄想が頭に浮かんだ。笑うと息が続かないと真澄は笑いを噛み殺した。
マヤは表情が豊かだ。真澄は、マヤが驚いたり笑ったり怒ったりする様を見るのが好きだった。舞台の上の表情とはまた違った表情を見せるマヤの素顔。
もう一度、見上げるとマヤと目があった。
真澄はそのまま、浮かんでいって、自分のゴーグルをマヤのゴーグルに軽くあてた。マヤが驚いた目をした。マヤの目が真近だ。真澄は目だけで笑いながら、マヤから離れて水面に出た。
マヤは立ち泳ぎをすると、口からシュノーケルを取って、叫んだ!

「な、何するんですか! びっくりするじゃないですか?」

マヤはどきどきした。

――ま、まるで、今のって、キ、キスみたい!

マヤは怒ったついでに、砂浜に戻った。フィンをはずし、ゴーグルを取った。ライフジャケットを脱ぐ。タオルをとってごしごしと頭と体を拭いた。水をごくごくと飲む。

――お、落ち着こう!

真澄も上がって来る。

「マヤ、怒ったのか?」

マヤはごくりと水を飲み込んだ。

「べ、べつに! びっくりしただけです!」

マヤは冷静になろうとしながら、声が裏返っているのがわかった。

「もう、速水さん、からかわないで下さいよ! シュノーケル初めてでそれでなくてもびっくりする事が多いんですから……、一瞬、溺れるかと思いました」

真澄はマヤからペットボトルを取り上げると、ごくごくと水を飲んだ。

「そうだな、すまない……。君が……」

真澄はくっと笑った。

「君が、半魚人に見えたんだ」

「はあ、半魚人?」

「ああ、やりをもって、魚をくわえた」

「せめて、人魚にして下さい」

真澄はくくっと笑いながら続ける。

「……、真近で確かめたくなった。半魚人か人か」

真澄は優しくマヤを見下ろした。

「かわいいマメダヌキだった」

マヤは真っ赤になった。

「もう、また、からかう!!」

真澄は笑いながらマヤの頭をぽんぽんと叩いた。



マヤは真澄から伊豆に誘われた時、これはきっと夢だ、きっと他の劇団員も誘われているのだと勝手に思い込み、黒沼組の劇団員達と一緒に伊豆に行ったのだ。真澄の表情から自分一人が招かれたのだと気づいた時は遅かった。それが、7月の初めの事である。そして、真澄からの食事の誘いが途切れた。
9月になって、水城秘書から真澄が働き過ぎで夏休みを取っていないと聞かされ、社長は一人だと休まないから一緒に行ってやってくれと頼まれた時、真澄と二人だけの旅行にマヤは二の足を踏んだ。秘書の水城はさりげなく、「伊豆では黒沼組が社長と宴会をしたんですってね」とマヤに伊豆での出来事を思い出させた。
伊豆に大挙して押し掛けた負い目からマヤは真澄との旅行を承諾したのだった。
昨日、マヤが羽田で真澄に会った時、2ヶ月振りの再会だった。少し痩せた真澄がいた。
空港で真澄はマヤに言っていた。

「今度の旅行、君が一緒だとは思わなかった。水城君から頼まれたんだろう。俺がちゃんと遊ぶように見張っててくれと」

「……、ええ、目を離すと、途端に携帯やパソコンで仕事を始めるからって!」

「確かに、君なら気をつかわないしな。それに、マメダヌキが迷子にならないか見張ってなきゃいけない。おちおち仕事もしてられないだろうし、ちょうどいいお目付役だ」

「マメダヌキって、もう、また、からかう!」

真澄はやはり、笑いながらマヤの頭をぽんぽんと叩いたのだ。



ポツ

雨が降って来た。
さっきまで晴れていたのが、あっという間だった。熱帯特有のスコールだ。
真澄とマヤは、岩棚が張り出している小さな窪みに飛び込んだ。沖縄とはいえ、雨にうたれるのはやはりよくない。

「スコールだ。すぐに止むだろう」

「あ! 痛!」

「どうした?」

マヤは足を見た。岩の角で擦りむいたのか、ふくらはぎに血が滲んでいる。マヤは岩に腰をおろした。真澄はペットボトルの水をマヤの傷口に振りかけ、傷を洗った。ふーふーと息をかける。真澄は傷口を見ていた。赤い血がじんわりと滲んでくる。真澄はマヤの傷口に唇を押し付けた。

マヤの呼吸は早くなった。真澄の舌が傷口をなめているのがわかる。それは、決して嫌な感覚ではなかった。
ただ……。
何か、根源的な物、体の奥の何かを呼び覚まされるような不思議な感覚だった。
全身に震えが走った。肌が粟立つ。
やがて、真澄が顔を上げた。マヤに笑いかける。

「どうした? ぼーっとして。これぐらいすぐに直る。もう、血は止った」

マヤは真澄に両手を伸ばした。真澄の顔をはさむ。そして、唇にキスをした。

「な、何をする!」

真澄が真っ赤になって、マヤの手を振りほどいた。

「キスしたら嫌ですか?」

「……!」

「だって……、速水さんだって、あたしの足にキスしたじゃないですか?」

「あれは、キスじゃない」

「キスですよ。ゴーグルだって、キスみたいでした。どうして、キスするんです?」

マヤの大きな瞳。真澄をまっすぐ見つめる瞳。

ザーーーーー。

雨が激しく降り注ぐ。岩の間のこの小さな窪みだけが二人の世界。

真澄はマヤを抱き寄せた。
唇に思いっきりキスをする。夢にまで見たマヤの唇。
目を閉じ、腕の中のマヤをきつく抱き締める。
やがて、そっとマヤを離した。脈拍があがり、心臓がどきどきと早鐘のように音を立てている真澄。
甘く深い声で囁く。

「……キスっていうのはこういうのだ。あんなのはキスじゃない」

マヤは真澄を見上げた。唐突に真澄の唇にキスを返した。
真澄は驚きながらもマヤのキスを受け入れた。
唇を離したマヤが囁く。

「こういうのがキスですか?」

夢を見るようにまどろんだマヤの瞳。

「……いや、違う……、君は、まだ、何も……、わかってない……」

真澄の掠れたような囁き。真澄はもう一度マヤにキスをした。熱い熱い大人のキス。
二人はいつしか抱き合い、キスを繰り返した。
海の水を含んだ塩辛いキスは、やがて甘いキスへと変わった。

キスが互いの気持ちを語っていた……。

愛していると

君だけを
あなただけを

愛していると

真澄はマヤを膝の上に抱き上げ、キスを繰り返す。
マヤは真澄の首に腕を回し、キスを繰り返す。

熱帯性のスコールは唐突に止んだ。
激しい雨音は消え、潮騒があたりに響く。
太陽は再び、灼熱の光を降り注ぎ、あたりにはむっとした湿気が立ち込める。
空には大きな虹がかかった。

二人は見上げた、大きな虹を!


真澄が囁いた。

「マヤ、俺の人魚。手を離したら君はまた、俺を置いて海に帰るのか?」

「……いいえ、だってあたしは人魚じゃない。
 マメダヌキは陸に住むんです。
 頭をぽんぽんしてくれる恋人の隣で……」

真澄はふっと笑うとマヤの頭をぽんぽんした。






あとがき


最後まで読んでいただいてありがとうございました。
読者の皆様へ感謝をこめて!


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