バーボン



「あなたなんて嫌い! 大っ嫌い!」

――いいさ、嫌われるのには慣れてる。
  いまさら、高校生の女の子に嫌われても、どうということはない。
  そうとも、最愛の女の子から嫌われたって……。

昼間、マヤから言われた言葉は俺の胸にちくちくと突き刺さった。
俺は、ため息をついた。
眼の前には氷の入ったグラスが置かれている。
溶けた氷が琥珀色のバーボンと混じり合って陽炎のように揺らめいている。
俺は飲んだ、嫌いと言われた数だけ。
それぐらい飲んだ所でどうという事はなかった。
が、酔いの中でマヤが俺に微笑みかけてくれた。俺は酔った。マヤの微笑みに……。



「真澄様、こちらが桜小路優の携帯で取られた写真でございます」
聖唐人から渡された写真は悪夢だった。

――マヤ! 君は桜小路と恋仲になったのか?

体中の血が逆流した。

ガシャン!

俺は、知らずにコーヒーカップを床にたたきつけていた。

「社長!」

秘書の水城が音に驚いて社長室に飛び込んできた。

深夜、俺は自宅に戻ると部屋にこもってバーボンを飲んだ。
人はイヤな事があると酒に逃げるという。酒を飲んで忘れるというのだ。
しかし、酒を飲んだ所で忘れられる訳がないのだ。
それでも、飲まずにいられない。
酔ってしまおう、そうすれば、マヤが俺に微笑みかけてくれる。幸福な夢にあえる。
マヤ、愛している。



アストリア号、眼の前に夜の海が広がっている。
俺は、バーボンの入ったグラスを片手にマヤのドレス姿を思った。

――マヤ、君は俺を本当に憎んでいるのか?
  君のいつものきまぐれだろうか?
  俺の腕の中で軽やかに踊った君
  素敵だった!


ウ、ウ、ウ、ヒック


――泣き声?

振り返るとマヤがいた。
これもバーボンの見せる夢だろうか?

「どうした? その格好は?」

マヤは元の普段着に着替えている。
よくわからなかったが、マヤも俺と同じ気持ちらしい。
あのスウィートルームは使いたくないようだ。
俺は鍵を海に投げ込んだ。

「あの、一緒にいてもいいですか?」

「ああ、そうだな、二人共帰る部屋がないんだ。一緒にいるしかあるまい」

ころころと笑い転げる君。
バーボンの見せる夢なら覚めないでくれ。

俺はマヤの頭に手を延ばした。ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。

――ああ、良かった、本物だ。

俺に微笑みかけてくれる君。
幸せをありがとう。








最後まで読んでいただきありがとうございます。
絵チャで酒の話題が出たので、飲んだくれた速水さんを書こうとしたら、ポエムになってしまいました。
お楽しみいただけましたでしょうか?
読者の皆様へ 心からの感謝を込めて!




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