深読み47巻レビューPart1



47巻前半に深読みレビューは必要ないだろう。
47巻前半は速水真澄と北島マヤ、二人の恋が成就する話である。
読者はひたすら、二人の恋に身をまかせ、漫画を読む至福の喜びに身を委ねればいいのである。
しかし、それでも、尚、二人の恋について深読みを聞きたい方達の為にこのレビューを捧げる。

さて、47巻の構成は、前半は二人の恋、後半は鷹宮紫織と桜小路優の話である。

(1)冒頭からディナーまで
47巻は、鷹宮紫織に小切手を返しにアストリア号に乗り込んだ北島マヤと、鷹宮紫織から何も知らされずにアストリア号に連れて来られた速水真澄との出会いから始まる。

速水真澄はホテルマネージャーから、鷹宮紫織が予約した二人の部屋をみせられ、鷹宮紫織に対し激しい嫌悪感を抱いた後、船から降りようとしていた。出口に向う速水真澄は、紫織に小切手を返しに来たマヤが船員達と揉み合っている所に出くわす。二人は北斗プロの襲撃以来、初めて出会うのである。これが47巻の冒頭である。
二人は互いに相手を見つめ立ち尽くす。速水は46巻の襲撃事件以来、度々見る夢を思い、目の前のマヤは自分の心の願望が見せた夢かと思う。
マヤはマヤで、まさかこんな所で速水に出会えるとは思っていない。そして、船は二人を乗せて出港してしまう。
47巻の冒頭は二人の関係がなんらかの進展を見せるのではないかと読者に期待させる冒頭である。
速水とマヤは食事を共にする。マヤはパーカーにミニスカートというカジュアルな格好である。二人の周りはみな正装した人々だ。それも、ある程度年齢の高い人々の集まりである。マヤは自分が浮いていると感じ落ち着かない。それに対し速水は落ち着いている。マヤとの出会いを楽しみ、まさに大人の余裕である。
鷹宮紫織は速水がマヤの紫のバラの人と知ってしまい(44巻)、以来、速水の心の中からマヤを追い出そうと画策する。(46巻)
その最終手段が、黒沼とマヤに1000万の小切手を渡して速水から遠ざけるという物だった。
マヤは小切手を返しにアストリア号に来たのだが、速水真澄に小切手の話をしようとしない。
私はマヤが優しいと思うのはこういう所だ。速水に会うなり、あなたの婚約者はこんな事をしたと言って速水に鷹宮紫織の悪行を告げ口するような真似をしないのだ。
鷹宮紫織の悪行を婚約者の速水にぶつけてもいいと思う。自分を侮辱したのだから。しかし、マヤは言わない。
速水と一緒に食事をしながら、周りの人々が自分と速水を噂している様子に、婚約者のいる速水と自分が一緒にいては良くないのではと速水を気遣う。
速水はそんなマヤの気遣いにも周りのうわさ話にも頓着しない。会いたくてたまらなかった筈のマヤに出会い、一緒に食事をするという夢のような時間をもったにも関わらず、その気持ちを決して表に出さない。その上、ディナーを優雅に食べている。
が、速水はマヤとの会話の中で、速水はマヤが人を探しに来たと言っていたのを追求する。マヤは速水に関係ないと言って答えようとしないが、速水から「紫織さんだろう」と図星をさされる。この時、速水はマヤに対して、弱冠警戒気味である。
「彼女になんの用事だったんだ」
と言う速水の顔は険しい。指輪とウェディングドレスの事件の後、マヤが紫織に会いに来る。また、何かあるかもしれない。速水がいささか警戒気味になるのは無理からぬ話だろう。
マヤは速水に対して嘘をつけないと観念して、小切手を速水に差し出し事情を説明する。
「あたし……、何もしていません……、本当です、信じて下さい(中略)だから受け取れません! そんなお金……!」
マヤの態度に速水はフッと笑い小切手を二つに破く。「これが俺の気持ちだ」と言う速水。

この速水が素晴らしい。拍手を贈りたい程かっこいい。
小切手というのは現金と同じなのだ。鷹宮紫織の差し出した金によって黒沼やマヤは人として貶められたのだ。
しかし、小切手を破る、すなわち、現金を破棄する事によって速水は二人を汚辱から救っている。

そして、速水はマヤを疑った事をあやまる。
速水の謝罪によって、鷹宮紫織が二人の間に生じさせた誤解は解けたのだった。

(2)ドレスアップから深夜まで
誤解が解けた二人はデートを楽しむ。
速水はマヤを美容室に連れて行き、ドレスアップさせる。肌の露出が多いドレスに身を包んだマヤ。
速水は変身したマヤの姿に初めてマヤを眩しく思う。しかし、速水は決してそれを表には出さない。マヤをからかい、冗談を言う。常にマヤを「チビちゃん」と呼ぶ。マヤは子供扱いする速水に「お酒だって飲めるし、結婚だって出来るんだから」と言って自分が大人になった事をアピールするのだが、結婚という言葉に初めて速水は顔を強張らせる。このページの速水の表情が切ない。
「いつかは結婚するんだな
 きみも誰かと……」
「はい いつかは……
 あなたが紫織さんと結婚するように」
立ち尽くす速水。
この時、速水は鷹宮紫織と別れようと思いながら、マヤが自分を憎んでいると思っている。
マヤの「いつか誰かと結婚する」と言う言葉に、自分ではない誰か他の男とマヤが結婚するのだと痛烈に思ったのだと思う。
この事実に打ちのめされ落ち込む速水。しかし、表面上は顔を曇らせただけで、「では、きみとデートできるのも今だけだ……」と言ってショーを見に行く。しかし、落ち込んだ速水はなかなか浮上出来ない。
マヤの側にいながら黙り込んでしまう。マヤは速水の様子に、紫織がいないのでがっかりしているんだろうと思う。
やがてフロアでダンスが始まった。人々が踊り出したのを見て喜ぶマヤを速水はダンスに誘う。
「僕と踊ってくれませんか? 北島マヤさん」
速水に取っては、或は、思い出作りだったのかもしれない。決して自分の物にはならないマヤ。せめて彼女の手を取り一時抱き合いたい。音楽に合わせ共に体を揺らせたいと思ったのかもしれない。
速水に誘われて踊れませんというマヤ。しかし、速水にリードされて華麗に踊り出す。マヤの手をギュッと握る速水。

ちなみに社交ダンスは男性のリードがいいと初めての女性でも運動神経が良ければ踊れる。マヤの場合、アルディスで少し踊っていた事、パックを演じる時、リズム感を養っていた事、日頃から鍛えていて身が軽いので踊れたと思われる。
踊っているのはワルツかブルース。速水がマヤを回転させている絵からジルバを踊っている可能性もあると思われる。

マヤは速水と踊って夢心地である。やがてダンスタイムが終わり、デッキに出る二人。星空を眺める二人。マヤは言う。
「満天の星、(中略)あの時も速水さんが隣にいました」
二人の間で時が静かに流れて行く。
深夜、速水はマヤを客室へと連れて行く。
この日、船は満室である。マヤの部屋はない。速水はマヤを鷹宮紫織が予約したロイヤルスィートルームに連れて行く。
速水は黙ったまま、マヤを従えて廊下を歩くのだが、部屋が一つしかない事に速水は逡巡する。
この後、速水は述べているのだが、速水は鷹宮紫織が予約したロイヤルスィートには泊まりたくないのだ。鷹宮紫織が予約した部屋に嫌悪感を覚えている。しかし、部屋が一つしかないという事実に男としての本能が刺激される。たった一つの部屋に片想いの相手と二人で泊まれると言う事実が頭から離れない。やがて、二人はロイヤルスィートルームに着く。鍵を開ける速水。
部屋に入ったマヤは、豪華な部屋に単純に喜んでいるが、やがて、速水と二人きりだと思う。思わず怯えるマヤ。そのマヤの表情に速水は理性を取り戻す。そして、自身の欲望を冗談にしてしまう。
「安心しろ 君を襲ったりしない」
冗談を言うだけの気持ちの余裕が出来たのだろう。マヤを置いて部屋を出る速水。
一人残されたマヤは、部屋の中に自分の服を見つける。そして、速水が見たように、『ダブルベッド』を見つけるのだ。速水が鷹宮紫織の為に用意した部屋だと誤解するマヤ。二つ並んだ枕に抱き合う二人の姿が浮かぶ。床に泣き崩れるマヤ。
一方、速水は船のデッキで一人、酒を飲んでいた。船の手摺に寄りかかり、茫漠とした夜の海を眺める。深夜である。あたりには人っ子一人いない。
そこに、マヤが泣きながらやって来る。マヤは普段着に着替え化粧もおとしている。速水に気が付いたマヤは急いで涙を拭う。
マヤは速水にシンデレラの時間は終わったと告げ、ドレスと鍵を返そうとする。
「あの部屋…
 速水さんが紫織さんのために用意したものですよね。
 あたし そんな部屋でなんか寝られません…」
思わず涙ぐむマヤ。マヤは「ありがとうございました」と言ってぺこりとお辞儀をする。速水に涙は見せられない。
速水は一瞬みた涙に何事かと思うが、既にマヤは速水に背を向けて立ち去ろうとしている。そのマヤの背中に向って速水は「まて……!」と叫ぶ。
このシーンの二人は混乱している。
マヤは速水が紫織を愛していて、二人で一夜を共にしようと思ってあの部屋を用意したと思っている。
速水はマヤが自分を嫌っている筈なのに、自分と紫織が一夜を過す為に自分が用意したと誤解している部屋で寝られないと言ってマヤが泣く理由がわからない。
速水はマヤに
「それにあの部屋は俺が用意した物じゃない。
 俺も何も知らずにこの船に連れて来られたんだ。
 このクルーズは紫織さんのサプライズだ
 たぶん 俺が仕事で忙しくそっけいないせいだろう」
と言う。思わず立ち止まるマヤ。
速水は心の中で、なぜこの子に言い訳してるんだと思う。
速水はマヤに自分が鷹宮紫織と一夜を共に過そうとしていたとマヤに思われるのが嫌なのだ。
さらに速水はマヤに言う。
「一度は帰ろうとしたんだ。君の姿を見るまではな……!」
「俺もあの部屋に泊まるつもりはない……!」
速水はルームキーを力強く海に投げ捨てる。その姿にマヤは混乱を深める。
速水もまた自分と同じ気持ちなのだろうか? (あの部屋には泊まれないと速水さんも思っているのだろうか?)と思う
そんな筈はない。やり手の社長で11も年上、素敵な婚約者がいるのにあたしなんかと同じ気持ちになる筈がないと……。
そんなマヤに速水は持っているコートを投げかける。ぶっきらぼうな言葉と共に投げかけられるコート。マヤは速水に、ここにいていいのか、側にいていいのかと問う。一緒にいるしかないと答える速水。速水の冗談に笑い合う二人がいい。
マヤは不思議に思う。あの速水さんと楽しく話している、以前はあんなに憎んでいた人なのにと……。
この時、速水はマヤが返そうとしたドレスと靴を受け取ってくれないかと言う。マヤは素直に「はい、あたしも気に入っていました」と返事をする。

雑誌連載中、このシーンに感激したのを私は鮮明に覚えている。
速水は、いままで紫のバラの人として幾多のプレゼントをマヤに贈っても、速水真澄としてプレゼントを贈った事はないのだ。
コーヒー一杯マヤに贈ろうとして拒絶された事があるくらいだ。(この時のコーヒー、結局マヤは受け取ったが)
速水真澄としてプレゼントをして受け取って貰えたのは初めてなのである。

(3)夜明け前から太陽が登るまで
さて、翌朝、スポーツデッキの横にあるロビーのソファで寝たマヤは夜明けの光に目を覚ます。
あまりの眩しさにスポーツデッキに出ると、まさに、太陽が水平線に顔を出した所だった。
大急ぎで速水を起こし、腕を引っ張ってスポーツデッキに連れて行くマヤ。
バラ色の空、大きく力強く登って来る太陽。マヤはこんなきれいな朝焼けは初めてだと言い、速水が間に合って良かったと嬉しそうに話す。
速水はそんなマヤに疑問を抱く。なんの屈託もなく速水の腕を掴むマヤ。速水が間に合って良かったというマヤ。本当に自分を憎んでいるのだろうかと。
その時、速水は上着のポケットに前日、大都芸能のエントランスで守衛から貰ったハンカチを見つける。

読者の中には忘れている人もいるかもしれないが、速水が、鷹宮家からの迎えの車を大都芸能のエントランスで待っている時、社長室に落ちていたハンカチを守衛から渡されているのだ。そのハンカチは、二人が食事をしている時もダンスをしている時もデッキで話している時もずっと速水の上着のポケットにあったのである。
このハンカチは物凄く重要なアイテムなのである。北斗プロの襲撃があった時、気絶した速水の額の血を拭ったハンカチなのだ。速水の血のついたハンカチ。このハンカチが社長室に落ちていた事で、鷹宮紫織ではなくマヤが速水の側にいた証拠になる重要アイテムなのだ。
鷹宮紫織は、速水に「あの子は怖くなって逃げてしまった」と嘘を言っている。
しかし、速水は夢現つに見た梅の谷の阿古夜を、そして聞いた阿古夜の台詞が忘れられない。頬にかかったマヤの涙。そして、マヤの口付けを……。
マヤは自分を憎んでいるのだから、あれは夢だといくら打ち消しても、何度も速水の夢に現れるあの時の阿古夜。
もし、このハンカチがマヤの落とした物だったら、それは、あの時の夢が本物だという証拠になるのだ。
つまり、マヤは速水を憎んでいるのではなく、むしろ速水を好きなのだという事実に気が付くアイテムなのである。
速水の血。これが、二人をあの甘やかな夜に結びつけるのだ。
そのハンカチを登る朝日の光が満ちたスポーツデッキでマヤに返す速水。果たして受け取るのだろうかと思いながらも確信を込めて言う。
「せっかくのハンカチを俺の血で汚してしまってすまなかったな」と。
マヤは血のついたハンカチにまざまざとあの夜自分が速水にした事を思い出す。婚約者のいる速水に暴漢に襲われた異常な事態の後だったとはいえ、速水の額に、唇に口付けをしたのである。涙を流し、阿古夜の台詞で気絶した速水に自らの気持ちを告白をしたのである。
マヤは顔を真っ赤にする。目をそらし速水の顔をまともに見られない。
その様子を見た速水が、マヤより11も年上のやり手の速水がマヤの気持ちに気がつかない筈がないのだ。速水はあの夜の夢はもしかしたら本当にあった事なのだろうかと思う。しかし、それでも、速水は確信が持てない。今までのマヤとの経緯を考えると確信が持てなくて当たり前だろう。そこで、速水は一計を案じる。マヤに阿古夜を演じてくれと頼むのだ。
マヤは速水に気づかれただろうかと思うものの、一生、告白する事がないと思っていた速水への気持ちを阿古夜を通して告げられる。
人は自分の気持ちを好きな人には伝えたいと思うものだ。知ってほしい、この気持ちをと。たとえ相手にすでに決まった相手がいてもそれでも、伝えたいと思う物である。
マヤは阿古夜を演じる事で速水に自分の気持ちを伝えようとする。
スポーツデッキで、登る朝日の中、マヤは阿古夜を演じる。速水を一真に見立てて。衣装はない。照明は登る朝日。
マヤの台詞に速水はあの時の台詞だと思う。が、確信が持てない。もう一度、演じさせる速水。そして、マヤの台詞にはっきりとあの夜の台詞だと確信する。
マヤの台詞、マヤの涙、マヤの口付け、それが総て実際にあった事だと速水は確信、マヤの気持ちに気付く。
(何故だ、信じられない……、マヤが俺を?)
それでもまだ、速水は半信半疑である。そして、速水はマヤの演技に次第に翻弄されて行く。
「……そなたに触れている時はどんなにしあわせ……」
この台詞と共に速水の上着を抱き締めるマヤ。あたかも自分が抱き締められたように思う速水。
上着を抱くマヤを見つめる速水についと近寄るマヤ。
登る朝日の中、マヤは速水の頬に手をあて、阿古夜の台詞を言う。幾度か速水に言って来た台詞である。あの梅の谷で、そして、気絶した速水に。そして、今、阿古夜として完成された演技でマヤは速水真澄に告白する。演技が完成されたからこそ、マヤの台詞は速水の魂を揺さぶり速水の鉄壁の理性を突き崩せたのである。
「捨てて下され、名前も過去も、阿古夜だけの物になって下され
 こうやって巡り会えたからには どうして二つに離れられよう
 元は一つの魂、一つの命
 おまえさまは阿古夜の命そのもの離れる事など出来ませぬ。
 永久の命ある限り」
登る朝日の円の中に二人の姿がある。二つの対局する感情、愛と憎しみを内包した円。登る太陽の中の二人。完全なる輪、完全なる二人の世界。対局する感情、総てのわだかまりは太陽によって昇華され純粋な魂の融合へと向う。
速水にとってマヤは長年愛し続けた少女。決して報われぬと思っていた速水の片恋。
その片恋の相手が自分を愛している。そして、自分を愛してほしいと、阿古夜の台詞にのせて言っているのだ。自身の情熱の炎で理性を焼き尽くす速水。
これ以上自分を騙せないと悟った速水は、マヤに駆け寄り抱き締めていた。
この時のモノローグ「完敗だ」がいい。名言である。
マヤを抱き締める速水。マヤの持っていた速水の上着がデッキに舞う。


長くなったので、この続きはPart2にゆずる。

今回、速水さんが、マヤの気持ちに気づく所の絵を、絵師さく様が模写して下さいました。


47巻イラスト

イラスト さく様


さく様のサイトへは、こちらから→  咲く・・・いつか




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