深読み47巻レビューPart2



47巻の続きである。

(4)夜明け
速水に抱き締められ、戸惑うマヤ。
速水が言う。「もういい……、もう……演らなくていい わかったから もう わかったから……!」
この台詞でマヤは自分の気持ちが速水に通じた事がわかる。
その時、朝焼けを見に他の船客達がスポーツデッキにやってくる。
船客達に気づいたマヤは、速水から離れようとする。しかし、離れようとするマヤを速水は引き止めさらにギュッと抱き締める。
この速水の行動にマヤは速水が自分を好きなのだと思う。
船客達は二人の姿を見て昨夜華麗にダンスを踊った二人だと噂をする。やはり恋人同士だったのだと……。
マヤは速水に自分達が噂になっていると言う。速水は「かまわん(後略)」
そしてマヤに聞く、「君は嫌か?おれとうわさになるのは」と……。
マヤは決意を持って「いいえ」という。この時のマヤの表情。決意が現れた表情がいい。
ここで二人は恋人同士になるのだ。

恋人同士とうわさされるのが嫌かと聞く事で、速水は俺達は恋人同士になるがいいかと聞いているのだ。
「きみはイヤか? おれと噂になるのは……」
これを訳すと君は俺と恋人同士になるのは嫌かと聞いた事になる。
それに対しマヤはいいえと応えている。つまり、あなたと恋人同士になるのは嫌じゃないと応えているのだ。つまり、恋人同士になってもいいと言っているのだが、言葉上は好きだとも愛しているとも言っていないのだ。
婚約者のいる男性との恋仲。二人共はっきりと口に出して言えない。言えないがこうやって思いを通じ合わせているのだ。

私は雑誌連載中、他の大抵の読者も同じだと思うが、このスポーツデッキで二人が抱き合っている所にギャラリーが出て来たのは、この後、二人の関係が雑誌にすっぱ抜かれるからだろうと推測した。
しかし、今回読み直して気が付いたのだが、それだけではなく、二人が自分達の想いをはっきりと言えない為ではないかと思う。
美内先生は、ギャラリーに「恋人同士?」と噂させ、それを肯定させるという形で二人のお互いの気持ちを伝えさせたのではないかと思う。
つまり、ギャラリーは二人の為に登場したのである。
wikipediaの「ガラスの仮面」の解説からだが、呉智英氏は「この作品が『徹底したご都合主義』に立脚するとしている」と書いている。
その伝で行くと、このギャラリーが二人の為に登場したという図式が見えて来る。
もし、このギャラリーがいなかったら、速水はこの後、マヤに下世話な台詞を言うしかなくなるのだ。
例えば、「君が好きなんだ。紫織さんを愛していない。きっと別れる。別れて君を迎えに行く」
こういう不倫物の定番のような台詞を言ってマヤに気持ちを伝える事になる。
しかし、美内先生は速水真澄にこういう台詞を言わせなかった。つまらない不倫男に速水真澄を貶めないでくれた。
私は、一読者として、ファンとして深く感謝する。

更に二人の抱き合うシーンは続く。マヤが「いいえ」と応えた後の速水の台詞がいい。
「では…… もうしばらくこのままでいさせてくれ…… たのむ……!」
あの速水真澄が、冷血漢の速水真澄が、頼むのだ!!感無量とはこの事だろう。
マヤは速水の気持ちに応える。速水の背中に回した手で速水のシャツをぎゅっと握りしめ、速水の胸の中で「はい」と頷く。
二人のラブシーンのなんと感慨深い事だろう。

二人の気持ちが通じ合う為に出て来た船客達は二人の姿に「じゃましちゃ悪いわ」と言って立ち去る。
船客達は二人の気持ちを通じ合わせるという役目を終えたので退場したのだろう。
二人きりになると速水がマヤに聞く。「いつからだ、いつから嫌じゃなくなった」と。
ここでマヤはシンプルに事情を説明する。
「はじめは……、でも今は……
 あたし誤解してました 速水さんのこと……
 (後略)」

想いの通じた二人。速水はやっとしっかりと抱き寄せていたマヤを離す。
しばし見つめ合う二人。
かくして二人は恋人同士となるのだ。このページではすでに二人は恋人同士になっている。
この後、二人の他愛ない会話が続く。

(5)紫のバラの人
マヤと速水が他愛ない会話で二人の親密さをました後、マヤは思う。

マヤのモノローグ
「長い間陰であたしを支えてきてくれた あたしの足長おじさん……
 世界で一番大切なあたしのファン……
 どれだけ会いたかったか……
 こんなに身近にいたなんて……
 あなたがなぜ正体をあかしてくれないのかわからないけど……
 なにか理由があるんですね
 きっと
 でも 今は
 それもどうでもいい……
 大事なのは今二人でいること……
 待とう あたし……
 いつか自分から話してくれる日まで……」

このモノローグでマヤと速水真澄の間の紫のバラが静かにフェードアウトしたように思う。
紫のバラは速水真澄のマヤに対する愛の象徴として描かれて来た。
決して本心を現す事の出来なかった速水の代わりに紫のバラは速水の気持ちを雄弁に物語って来たのである。
しかし、42巻、速水は桜小路に対する嫉妬心のあまりレストランでマヤに紫のバラを贈る。速水の諦めの悪さを象徴したこの時の紫のバラは、結局川に落ちたマヤの手からこぼれ打ち捨てられてしまう。速水は打ち捨てられた紫のバラに自分自身を重ね惨めさを増し、聖から桜小路の携帯にあったマヤの寝顔の写真に打ちのめされて、マヤへの恋を諦め、鷹宮紫織との結婚に邁進して行く。
しかし、マヤがやくざな記者達から「お粗末なライバル」とかき立てられると、速水はすぐに紫のバラを贈り励ます。
紫のバラは元通り速水の愛の象徴に返り咲くが、この時贈った紫のバラは、鷹宮紫織に不信を抱かせ、速水真澄にはマヤが紫のバラの人に恋をしていると告げさせる。
鷹宮紫織の不信感は大きな不安となり、鷹宮紫織をして速水の伊豆の別荘に侵入させる。鷹宮紫織はマヤのアルバムを持ち出し写真を引き裂き紫のバラをつけてマヤに送る。結果、紫のバラはマヤを傷つける道具に使われる。紫のバラは速水の手を離れ、一人歩きを始めているのだ。
二人の間からは静かにフェードアウトした紫のバラが、今後、どのような使われ方をするか見届けたいと思う。

(6)桜小路 優
さて、恋人同士になった二人については、後述する。
先に、船が港についた後の桜小路について語っておこう。
桜小路は北島マヤが、船に乗って行ったと黒沼龍三から聞き、バイクに乗って港にマヤを迎えに行く。
そこで、桜小路はマヤと速水が抱き合っている姿を目撃する。
その姿から、マヤと速水が恋仲になった事を知る。動揺した桜小路は、港からバイクで帰る途中、事故を起してしまう。
足を骨折し全治2か月の重症を負う。しかし、演技が出来なくなった桜小路は、マヤへの恋心よりも初めて一真として舞台の上で生きてみたいと思うのだ。怪我をして演じられなくなった時、初めて自分がどれほど演じたいかわかるのだ。
そして、黒沼龍三の指導の元、片足に怪我をした一真を演じる事で足を折った困難を乗り越える。

(7)下船後の速水真澄と鷹宮紫織
船に乗り遅れた鷹宮紫織は速水真澄を港で待っている。鷹宮紫織は北島マヤの姿を見て、速水に会うなりマヤが何故、ここにいるのか問い質す。速水は落ち着いて応える。船まであなたを探しに来てそのまま 出港してしまっただけですと。そして二つに破られた小切手を差し出す。「破いたのは僕ですが……」と言う。

はっきり言って、ここでも私は速水さんに拍手喝采を贈りたい。よく言ってくれたと思いました。

唖然とする鷹宮紫織をおいて、マヤを送って行こうとする速水真澄。その後ろで鷹宮紫織が倒れる音がする。
紫織が貧血を起して倒れたのだ。
速水は仕方なく鷹宮紫織に付きそうのだが、その枕元で鷹宮紫織の人間性を疑う。
翌日、出社した速水は秘書の水城から鷹宮紫織が紫のバラをすべてハサミで切り取っていた事、鷹宮紫織の車の中にマヤのビリビリに引き裂かれた写真の破片があった事を聞かされる。更に、聖唐人からマヤの元にマヤの舞台写真が引き裂かれて紫のバラの人から届けられていたと聞かされる。速水は別荘に行って、マヤのアルバムと卒業証書を探すがない。鷹宮紫織に紫のバラの人の正体を知られたと思った速水は、聖唐人にマヤの身に降り掛かった指輪事件の真相を調べさせ婚約解消に向けて動き出す。

42巻において、徹底的に落とされた速水が、
1.マヤが紫のバラの人に恋をしていると知らされた事
2.マヤと自分が魂の片割れ同士ではないかと気づいた事
3.鷹宮紫織との価値観の差を思い知った事
4.アストリア号での鷹宮紫織への激しい嫌悪
5.マヤと相思相愛になった事
以上の経験を経てようやく速水真澄は這い上がって自ら鷹宮紫織に対し婚約解消の為に具体的に動き出したのである。
47巻はいろいろな意味で「ガラスの仮面」に置けるエポックメイキングな巻なのである。

さて、47巻を読まれた方は既にお気づきだろう。
もっとも重要なシーンを飛ばしていると……。


長くなったので、この続きはPart3にゆずる。

今回、速水さんが、マヤの気持ちに気づく所の絵を、絵師ぎずも様が模写して下さいました。


47巻イラスト

イラスト ぎずも様


ぎずも様のサイトへは、こちらから→  〜Wind Tune〜




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