この文章は、連載第6回の最初に書いた文章です。後に続かないので没にしたのですが、没にするにはあまりに惜しいと思ってアップしました。



 続・狼の夏    連載第6回 




 その晩は、湖の対岸で花火が打ち上げられた。
二人は、速水の別荘のテラスで遠くの花火を、仲良く並んで見ながら食事をした。
マヤは昨日と同じワンピースを着ていた。
花火を見ながら、マヤは浴衣を着たかったなあ〜と思った。
その日は創作料理で、やはり近くのレストランからシェフが来て料理をしてくれた。
湖からとれた新鮮な魚を使った料理は、とてもおいしかった。
食事が終わると、シェフは挨拶をして帰っていった。
夜空には、まだまだ花火があがっていた。
マヤと速水は、テラスの欄干によりかかりながら、更に打ち上げられる花火を眺めていた。
マヤがふと見上げると、速水の横顔が花火の灯りを受けて夜空をバックにくっきりと浮かび上がった。
その横顔は端正で美しかった。
だが、その絵のような横顔も花火と共に消えて行った。

マヤの視線を感じて速水が振り向いた。

「どうした?」

「いえ、なんでも。花火ってきれいだな〜と思って。」

「ああ、夢のようだな。」

マヤは思った。
(速水さん、あなたとの夢のような一日ももうすぐ終わる。
 あの花火と同じように)

ドーン、ヒュー、パパパパパーン!
次々に花火が打ち上げられていく。
白から青へ、赤から緑、次々と花が開くように夜空を彩っていった。
やがて、その花火も終わった。

いつのまにか、音楽が流れていた。

Unchained Melody

マヤはこの曲が使われた映画を覚えていた。
「ゴーストニューヨークの幻」
(あのダンスシーン素敵だった。)
男性ボーカルの高く透明な声。
マヤは思わず囁いていた。

「速水さん、踊ってください。」

まやは速水に手を差し伸べた。
速水は黙ってマヤの手を取った。

二人は、抱き合い、緩やかに踊り始めた。
速水の温もりが、かすかに香る煙草の香りが、マヤを包んだ。
この温もりも、この香りも、今この時だけ。

やがて二人は立ち止まり見つめ合ったまま静かに佇んでいた。
マヤはゆっくりと目を閉じた。
速水はマヤの唇にそっと口付けをした。

マヤの目から一雫の涙が、ほほを伝っておちた。

マヤが目をあけると、速水の瞳が覗き込んでいた。

速水は、何も言わずマヤを抱きしめもう一度口付けをした。
男が最愛の女性にするキス。

マヤの閉じられたまぶたの裏に、先ほどの花火が鮮やかに浮かび上がった。

何度も。

何度も、、、。

やがて、速水は、マヤの手を取り室内へと誘った。

2階へと続く階段をマヤは速水に手を取られて登っていった。
速水がドアを開けると、バラの香りが二人を包んだ。
紫のバラの花束が至る所に生けられていた。

ダウンライトの下、速水はマヤを抱き上げると紫のバラの花びらの中に横たえた。


満天の星々が、恋人達を優しく包んでいた。
銀河は緩やかに回転を続けていた。


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