女神降臨    連載第6回 



 「紅天女」試演の日。

試演の後、マヤが紅天女の役のまま、ぼんやりしている楽屋へ鷹宮紫織を伴った速水がやって来た。
速水は感激と感動で一杯だった。

「ちびちゃん、素晴らしい紅天女だった。」

褒める速水に向けられたマヤの顔。
あの日、社長室で酔っぱらったマヤに現れ、梅の谷で待っていると言った女の顔だった。

「、、マヤ!」

「、、、おまえさま、、、。梅の谷で逢うた事をお忘れか?」

女は、速水の手を取ると頬にすり寄せた。
紫織の罵声が飛ぶ。

「離れなさい。何をするの! 人の婚約者に!」

女は、速水の手を離すと紫織に向かって、ぴたりと指を指した。

「その女、よくも人に濡れ衣をきせてくれたな、あの指輪、妾のバックにいれたのはそなたであろう。
 今、見せてくれるわ。」

女が手を振ると、突風が吹き部屋全体が輝いた。

速水は理解した。
今ここに居るのは紅の姫神。荒ぶる女神だという事を。

そして幻影が現れた。
喫茶店でマヤと話す紫織。マヤのバックを払い落とし、中身を拾う振りをしながら婚約指輪を忍び込ませる紫織。
紫織は叫んだ。

「こ、こんなの嘘よ!
 違う、私はしていませんわ!」

「まだ、言うか! では、これはどうじゃ。」

幻影はぐにゃりと曲がると別の映像となった。
ウェディングドレスの試着室。マヤの持つブルーベリージュースの上に自ら倒れ込む紫織。

「紫織さん! これはどういう事です。」

「う、うそよ、こんなのまやかしよ。」

「では、こちらはどうじゃ。」

女が更に手を振った。
速水の伊豆の別荘で、紫織がマヤの写真を引き裂く姿が映し出された。

「おまえさま、伊豆の別荘を調べて見よ!
 アルバムがどうなったか、一目でわかる筈じゃ。」

「あ、あなたが悪いのよ。
 私にプロポーズして置きながら、こんな女を心に住まわせて!
 そうよ、私がこの女に濡れ衣を着せたのよ。
 あなたの心からこの女を追い出す為に!」

紫織が泣き喚きながらくずおれた。
紫織の様子に満足したのだろう、マヤの顔から紅天女の表情が消えるとマヤもまた、その場で気を失った。
倒れかけたマヤを速水はさっと抱き上げた。
速水はマヤを抱き上げたまま紫織に告げた。

「紫織さん、あなたがそんな人だったとは、、、。
 近々、あなたのご両親と鷹宮会長にお話に伺います。
 婚約解消の件で。宜しいですね。」

紫織は泣きながら飛び出して行った。

そして、更に数ヶ月後。

マヤ21歳の誕生日。
紅天女を継承し、「紅天女」新春公演の真っ最中。
またしても、速水から花スタンドがロビーに届けられていた。

「北島マヤ様 誕生日おめでとう!」

花スタンドを飾るバラの色は紫。
そして、舞台が終り、楽屋に現れた速水が抱えていたバラの花束の色も紫。
この日、鷹宮紫織との婚約が解消され自由の身になった速水。
マヤにとって、その速水こそが誕生日の最高のプレゼントだった。

速水はマヤを伴って、レストランへ食事に行った。

「速水さん、今日も、誕生日の花スタンド、ありがとうございました。
 みんなから、お祝いを言われてすごく嬉しかった。」

「なんだ、みんなからお祝いを言われたのが嬉しいのか?
 俺は、てっきり、俺が花スタンドを送ったのを喜んでくれてると思ったのに。」

「もう、イジワルなんだからあ〜。
 もちろん、、、、もちろん、速水さんから送られたのが嬉しいに決まってる!」

マヤは、俯いてほほを染めるとそう答えた。
速水はマヤのその反応を愛おしそうに眺めた。

「さあ、ちびちゃん、乾杯しよう。21歳の誕生日おめでとう!」

「ありがとう、速水さん!」

シャンパングラスをかちりと合わせて、二人は乾杯した。

「このシャンパン、おいしい!」

「気に入ったか? だが、飲み過ぎるなよ。」

「もう、速水さんたら! 大丈夫、だって、今日は、、、、。」

マヤは更に真っ赤になって俯いた。
速水はその様子に愛おしさで一杯になった。
このまま、このテーブルの上でマヤを押し倒したいと速水は強く思った。

そして、食事の後、向かったホテルのスィートルーム。

今日は、二人にとっての初めての夜。
速水の婚約が解消されるまではと、ずっと、待っていた二人。
待望の夜だった。

マヤと一つになった速水の前にあの女が現れた。
1年前、社長室で酔っぱらったマヤに現れ、梅の谷で待っているといった女。
いや、違う。
虚像と実像がぴたりと一致するようにマヤとあの女が一致した。
艶やかにに潤んだ黒目がちの瞳。少女から大人の女の顔へ。

「、、、おまえさま、、、。」

「マヤ、、、俺のマヤ。
 、、、愛している。」

梅の谷で銀河を足下に抱き合った一体感。
あの感激が今一度、二人を包んだ。
二人は肉体を離れ、光る魂となって融合した。
一つになっては離れ、離れては一つになった。
銀河から銀河へ、螺旋を描いて飛翔した。
魂の飛翔。

そして、、、、再び人の世に戻ってきた。
共に人生を歩む為に。

「マヤ、、、、愛している、愛している!」

「おまえさま、愛しい人!」

夜明けの太陽が、空を群青色に染め始めていた。

エピローグ

二人は婚約した。
それぞれの仕事に忙しい毎日だったが、二人はいつでも互いの存在を心の内に感じ、これが愛なのだろうと信じた。
その後、女神がマヤの上に現れる事はニ度となかった。
速水にとって、そんな事はどうでも良かった。
マヤが女神の化身であろうとなかろうと、速水にとってマヤは、唯一愛する女。
魂の片割れだった。





後書き


一体、この話のどこが、甘甘なのかと突っ込まないで下さいね。(^_^)
甘甘がどんな状態なのか、今一、よくわからなかったので、誕生日にフォーカスして書いてみました。
二十歳の誕生日はやはり特別な誕生日だと思います。
愛する女性の二十歳の誕生日に速水さんだったら何をするか?
そこを一生懸命考えて見ました。
ちなみに携帯のない時代の話です。
読んで下さってありがとうございました。



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