炎   連載第4回 




 紫織は、その記事を見た時、我が目を疑った。

「今をときめくスーパーモデル『ララ』のお相手は大都芸能、速水社長か?」

ララが真澄と腕を組んでパーティ会場に入る姿が写っていた。
深夜、帰宅した真澄に紫織は珍しく問いつめた。

「あなた、この記事はなんですの?」

「これは、奥さん、今日は体の調子がいいの?」

真澄は、軽く酔っていた。

「はぐらかさないで下さい。この記事は本当ですか?」

「ララは大都芸能所属のモデルだ。
 話題作りに一役買っただけですよ。
 あなたが嫉妬するなんて、珍しい。」

真澄はそう言って紫織を抱き寄せようとした。

「や、やめて下さい。」

紫織は真澄の手を振り払った。

「どうして? 僕らは夫婦ですよ。
 あなたの体を気遣って僕はずっとあなたを抱かずに来た。
 でも、体調がいいなら妻としての役目を果たしてくれませんか?」

さらに紫織を抱こうとする真澄を紫織は懸命に押しのけた。

「私、知ってるんです。
 あなたが、あなたが、マヤさんを愛しているのを。
 あなたが『紫のバラの人』だって事を。」

真澄は硬直した。

「紫織さん!」

「私があなたに抱かれたくないのは、
 あ、あなたが、マヤさんを愛しているのを知っているからですわ。
 他の女を愛している男に抱かれる惨めさを味わいたくないからですわ。
 あなたは少なくとも表面上は妻としての私を大事にしてくれましたわ。
 今までは、、、。
 あなたはマヤさんを愛しているのを誰にも悟らせなかった。
 私でさえ、あなたがマヤさんを忘れたのではないかと思った程でした。
 でも違った。
 あなたは、ずっと、彼女の舞台に紫のバラを送り続けた。
 私、知ってるんです。
 マヤさんの初日の舞台、何があってもあなたが必ず観に行っているのを。」

紫織は静かに涙を流していた。流れる涙をハンカチで抑えながら紫織は続けた。

「でも、このモデルさんは違う。
 こんなに派手に書き立てられて、私の妻としての体面をあなたは傷つけた。
 それが、許せないのですわ。」

「わかりました。これからは注意しましょう。
 あなたの妻としての体面を傷つけないよう、せいぜい気をつけるようにしましょう。
 それと、紫のバラを北島に送るのも次の『紅天女』の公演が最後になるでしょう。」

「マヤさんに恋人が出来たからですわね。」

「・・・」

「一月程前、週刊誌に出ていましたわ。
 あなたが、ララと派手な浮き名を流したのも、そのせいなのでしょう。
 マヤさんへの当てつけ。
 私、あなたのマヤさんへの愛に感動していましたのよ。
 だって、そうでしょう。
 あなたはご自分を憎んでいる少女を愛しているのですわ。
 その上、マヤさんの演技の為なら、嫌われてあたりまえの事を堂々となさる。
 さすが、私の愛した方。そう思っていましたの。
 でも、今度の浮気は違いますわ。
 愛した女性が他の男と恋仲になるのが嫌で自暴自棄になるなんて、、、。
 あなたがそんな男に成り下がるなんて、、、、。軽蔑しますわ。
 あなた、私達、離婚しましょう。
 相手を尊敬出来なくなったら終わりですわ。
 それに、大都ホールディングスの株式の取得は終わったのでしょう。
 増資をしてお義父様の持ち分を減らし幾つかの会社を通して買い集めた株式でお義父様より権力を握る。
 あなたが私と結婚したのは鷹宮のバックアップが欲しかったから。
 資金を集める為に鷹宮のバックアップが必要だったから。
 もう、私の役目は終わりましたでしょう。
 だから、私を解放して下さい。」

「紫織さん、、、。」

真澄は、やはり紫織はあの鷹宮翁の孫娘だと思った。人への洞察力がするどい。
この人を愛せたら楽な人生だったろうにと真澄は思った。


翌日、紫織は実家に戻り、やがて二人は正式に離婚した。
真澄はすでに、鷹宮のバックアップが無くても大都グループを掌握出来るだけの権力を獲得していた。
紫織に軽蔑されても、真澄は様々な女達とのアバンチュールをやめようとしなかった。
マヤが誰か他の男を愛しているなんて、真澄には耐えられなかった。





続く      web拍手     感想・メッセージを管理人に送る


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