星空に抱く    連載第7回 




 俺は結婚式を三日後に控え、黒沼さんの稽古場を訪れていた。「紅天女」の件で相談があると言う。秘書の水城が器用にスケジュールを調整してくれた。キッズスタジオに付き通用門を通って稽古場に向う。人の気配がない。俺は変だなと思いながら稽古場のドアを開けた。暗幕が引かれ真っ暗である。

「黒沼さん」

俺は声をかけ、電気のスィッチを探そうとした。とたんに灯りがともった。パパパパパン! パーン! パン! クラッカーが鳴る。

「おめでとうございまーす!!!!」

大勢の人々から拍手で迎えられた。

「これは一体?」

集まった人々が口々におめでとうを言う。どうやら、俺の結婚を祝ってくれているみたいだ。稽古場の真ん中に宴席が設けられ、その前には舞台。舞台の上には、「速水社長、結婚おめでとう!」の文字がある。どうやら、俺のサプライズパーティのようだ。びっくりした。黒沼さんが近づいてきた。

「よう、若旦那! あんたのバチェラーパーティをしようって事になってな。ほら、あんたが紹介してくれた杉浦課長。彼の発案なんだ」

杉浦課長がぺこりと頭を下げた。

「まあ、今夜は無礼講だ。楽しんでいってくれ」

次々にビールがつがれ、乾杯となった。黒沼さんが祝辞を言うと出席者が口々にお祝いを言う。俺は、一人一人に軽妙洒脱、それでいて無難な答えを返した。これぐらい即答できないようでは社長業は務まらない。参加している人々を見渡すと、大都の俳優やスタッフ、その他、俺が親しくしている人々が集まっていた。バチェラーパーティだけあって、全員男だ。と言う事はこの後、何が行われるか容易に察しがついた。
俺は隣に座っている黒沼さんに

「黒沼さん、ストリップはやめて下さいよ。俺はマヤを裏切るつもりはないんです」

「大丈夫、若旦那、マヤも承知だ。それに俺が企画したパーティだ。おかしな具合にはならんよ。ま、楽しんでくれ」

俺は黒沼さんの言葉にも半信半疑だった。野郎がこれだけ集まったら、やる事は一つだろう。しかし、俺は黒沼さんの言った「俺の企画したパーティ」というのが引っ掛かった。稀代の名演出家が企画したバチェラーパーティ。最高の贅沢かもしれない。その時、灯りが一斉に落ち、スポットライトが舞台にあたった。ドラムが鳴り響き、シンバルがなる。ジャーーン!

「お集まりの皆様、本日の余興、ショーの始まりです」

音楽、そして、女性達が出て来ると、ラインダンスが始まった。なんと、あの歌劇団の元メンバー達じゃないか!
ダンスの後は、これもまた、素晴らしい女性歌手の登場。彼女の持ち歌を披露する。
また、ダンス! しかし! なんと水城君だ。水城君が舞台下手から中央に向って歩いていく。水城君はいつものスーツ姿だ。ばっちりタイトスカートを着こなし、ハイヒールを履いている。脇にはA4の書類封筒。コツコツコツ。
バンドが陽気な音楽を奏で、水城君の周りを先程のダンサー達が絡んでいく。波のように。
かっちりとした姿の水城君の周りを網タイツ姿のダンサー達が踊っていく。水城君は中央にたつと時計を見た。何か待っている風情だ。ダンサー達は水城君の様子を意に介さず、踊り回る。水城君のスーツ姿とバニーガール姿の踊り子達。この対比が、思わぬ色気を醸し出している。さすが、黒沼龍三。

ダンスが終わると、歌と踊りを交えた寸劇の始まり。

「こ、これは!」

舞台で演じられるのは「紫のバラの物語」。俺の役を演じているのは、あれはアメリカにいる筈の里美茂。マヤ役は、マヤ本人だ。俺は下を向いた。こっそりやっていたいたづらを白日の元にさらけ出された感じだ。

「黒沼さん、あんまりです」

と小声で言うと

「これからだよ、いいから最後まで見ろ」

初めてバラを贈った「若草物語」、高校への進学、稽古場として貸した別荘、そして、雨月会館の補修。
補修が終わりマヤが舞台で叫ぶ。

「ありがとう、紫のバラの人!」

その時、黒沼龍三が立ち上がった。

「若旦那、いや、速水社長、ここにいる大勢が多かれ少なかれあんたの世話になった連中だ。改めて礼を言う」

周りからありがとうございましたの声がかかる。俺は照れくさかった。仕方なく俺は立ち上がった。

「みなさん、今日はこんな素敵な芝居をみせていただいて……、こちらこそ、ありがとうございます」

全員から拍手が起こった。俺は目頭が熱くなった。速水真澄ともあろう者がなんという体たらくだ。

ジャーン!!

「さ、ショーの続きだ。盛り上がるぞ!」

「おー!」

音楽が変わった。生バンドではない。「I Wanna Be Loved By You」 映画「お熱いのがお好き」のテーマ曲だ。マリリン・モンローが色っぽく歌っている。
舞台から出て来たのはマヤだ。金髪のかつらをつけ、なんてことだ。さすが、千の仮面を持つ女。すでに少女ではない。なんて色っぽいんだ。身につけているのはロングドレスだが、すこしづつ、ドレスが剥ぎ取られて行く。剥ぎ取っていくのは先程のラインダンスの女達。まず、スカート。あ、下着のパニエ姿になった。次に手袋。袖。だめだ、他の男には見せたくない。服を来ていてもこれだけ色っぽいんだ。だめだ、脱ぐな。とうとう、網タイツにバニーガール姿になった。なんてセクシーなんだ。シルクハットにステッキを持っている。

「さ、若旦那出番だ」

俺はみんなに担ぎ出された。椅子に座ったまま、舞台の上にあげられる。黒沼龍三が声をかけて来た。

「椅子に座ったまま、じっとしててくれ」

マヤが歌いながら、俺の膝にのってくる。ああ、目が離せない。膝の上にのったまま、客席を向きポーズを取る君。俺は腕を伸ばした。思わず抱きしめそうになる。マヤはするりと逃げ出し、くるりと振り返った。

「ドゥドゥビッ、ドゥッ!」

俺に投げキッスを送ってEND!

会場から拍手が沸く。ショーが終わると宴会になった。マヤ達も着替えてきて合流。皆で歌を歌おうと言う事になり、誰でも知っているアニメソングを合唱。アニソンを知らない俺は適当に口ぱく。それがばれて冷やかされる。やがて散会。楽しい一時は終わった。


その夜、俺はマヤにショーの続きを求めた。マヤは踊りながら、脱ぎ始めたが、

「速水さん、この後は結婚してからね」

と軽く流され、

「お式の後までベッドは、お・あ・ず・け!!」

笑いながらウィンクをする君。
う〜ん、いつのまに君は小悪魔になった!! 俺は一人枕を抱いて寝た。結婚式まで後三日!





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