星空に酔う 連載第2回
俺は東京から伊豆へ高速道路を西へ南へと車を走らせた。
マヤと俺はたわいもないおしゃべりをして過した。駆け引きのない会話。俺には貴重だ。
伊豆にはちょうど昼時についた。日射しが暖かい。別荘に用意されたランチをぱくつく。マヤはまたもや健啖家ぶりを発揮する。
デザートに用意された色とりどりのケーキを一人で平らげた。
着替えて浜辺に降りるとマヤは元の子供っぽいマヤに戻った。なんだか、ほっとする。俺はマヤにカニの巣を見せた。カニは俺が東京を離れている間も、変わらずここにいたらしい。岩場をちょこまかと走り回っている。ひとしきりカニのあぶくを眺めた後、砂浜を散歩した。
「きゃあ、速水さん、つめた〜い!」
裸足で走り回るマヤ。俺は笑い出していた。ああ、君は変わらない。外側がいくらに大人になっても、中身は昔のままだ。
「速水さん、なに、何かおかしい?」
「いや、違うよ、嬉しいだけさ。君が、君のままで……」
マヤはきょとんとした顔をした。
「……変なの!」
マヤは波に足を洗わせている。俺も、靴を脱ぎ裸足になった。ズボンをたくし上げる。
マヤははしゃぎながら歩いている。俺はマヤの手を取ると並んで歩いた。時々、立ち止まって海を見た。潮風が心地いい。
「あ!」
マヤが砂に足を取られてこけそうになった。
「おっと!」
俺はマヤを抱きとめた。
マヤが腕の中から俺を見上げる。マヤの艶やかな瞳。
俺はそのまま、マヤを抱きしめた。
腕の中の小さな小鳥。君に口付けするよ。
「速水さん? あ……」
マヤの柔らかな唇。塩辛い。上唇を唇ではさみついばむ。マヤの唇を舌で割って……。深いキス。
マヤ! マヤ、君が俺の口付けに応えてくれるなんて! どくどくと心臓が音を上げる。熱が一気に上がる。
マヤ! 君の舌を俺は受け入れる、小さな可愛い舌、だが、最後は俺に君を貪らせてくれ!
……! ……! ……! ……! ……!
俺はやっとマヤの唇を離した。
「は……やみ……さ、ん……!」
俺の胸に体を預ける君。息をはずませている。
抱きたい!
俺はマヤを抱き上げた。抱き上げたまま歩いた。砂浜に広げたシートの上にマヤをそっと横たえる。
そのまま、もう一度、口づける。
Tシャツの上から彼女の背中を、脇腹を撫でる……。
俺は彼女の唇を割って舌を追いつめる。彼女の腕が俺の首に回されるのを感じた。
俺はマヤの耳元に唇を寄せた。耳たぶを噛み、舌でそっとなめてみる。そのまま、首筋へ口付けする。ゆっくり……。
マヤの手が俺の背中を撫でる。俺はマヤのTシャツを脱がそうとした。その時、初めてマヤが俺の手を押し止めた。
「ここでは、イヤ」 掠れた声が耳元でささやく。
「何故?」 俺は、首筋に口付けを続けながら答える。
「だって、誰かに見られたら」
「誰もいない」
「誰も? ……いない? ううん、カニがいる……」
「巣の中に帰っている」
「かもめが……」
「彼らはトリ目だ」
マヤの体がピタっと止まった。俺をまじまじと見上げる。そして笑い出した。俺もつられて笑った。気が削がれた。俺はマヤの隣にどさっと体を投げ出した。
青空を見上げる。白い雲が眩しい。潮風の心地良さ。
マヤが俺を見つめている。俺も、マヤを見つめた。二人で目を合わせてまた笑い転げた。
俺は肘をついて体を横にした。
マヤの瞳を覗き込む。瞳の奥は謎だ。俺はマヤの手をそっと握った。指を絡ませる。
「いやか?」
「……ここでは、イヤ」
「どこならいい」
マヤがしばらく考える。
「……社長室なら」
俺はぎょっとした。思わずまじまじとマヤを見つめた。
「うそ! うそぴょーん!」マヤがけらけらと笑った。
「こら! 悪い子だ、大人をからかって」
俺はマヤのあちこちをくすぐった。
「ヤーン! やめてぇ!」
マヤがあははと、笑っている!
と思ったら、反撃された。さすが、狼少女。俺は脇腹をくすぐられた。
二人で砂浜を笑い転げた。笑い死ぬかと思った。ひとしきり笑った後、ぜいぜいと息をはきながら、起き上がった。
俺は風が強くなったのに気がついた。
「さ、別荘に戻ろう。二人とも砂だらけだ」
「うん」
日が傾き始めていた。俺達は、手をつないで別荘への道を登った。
続く
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