恋人   連載第8回 




 夜中に目を覚ましたマヤは、天井を見上げ、ここはどこだろうと思った。

――あ! 速水さん……。

真澄がいない。
マヤは記憶を辿った。
真澄とテラスでシャンパンを飲んでいた。
それから、キスをして、真澄の手が……

――あたし、ドキッとして体が勝手に固くなったんだ。
  そしたら、速水さんは、離れて行った。
  だって、速水さんはあたしの嫌がる事はしない。
  嫌がる事をする時は、必ず理由があるんだ。
  ……
  速水さん、押し倒してくれていいのに……

マヤは起き上がると、バックの中から寝間着を出した。
白の綿ローンのネグリジェ。青いリボンがついている。
花嫁衣装のかわりだ。

――あたし、速水さんが好き!
  でも、きっと、今夜が最後。
  あたしは、速水さんの花嫁にはなれない。
  だって、大都の社長夫人なんてあたしには無理。
 
マヤはそっと、速水の寝室の前に立った。
ドア越しに速水の寝息が微かに聞こえる。
マヤはもう一度シャワーをあびると、ネグリジェに着替えた。
そして、真澄の寝室のドアをそっと開けた。







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マヤが枕元で真澄をじっと見ている。
カーテンから洩れる月の光。
その中にマヤがいる。

「どうした? 眠れないのか?」

マヤがこくんとうなずく。
真澄は、ベッドの端によると毛布を持ち上げた。

「おいで」

マヤは真澄の隣に潜り込んだ。
真澄の体に腕をまわし抱きしめる。
真澄の胸に耳をあて、真澄の鼓動を聞いた。

「生きてる……」

真澄がくすくすと笑った。

「当たり前だ」と囁やく。

マヤは、真澄の胸から耳を離すともそもそと毛布から首をだす。
暗闇の中、真澄の目を覗き込んだ。

「速水さん、あたしの事……、好きですか?」

真澄は笑い出していた。

「何故、そんな事を聞く?」

「……言ってくれないから……」

「……君は?」

「質問に質問で返さないで……。ねえ、好きですか?」

「ああ、好きだ」

マヤの顔がぱあっと明るくなったのが、暗闇の中でもわかった。

「どれくらい?」

「マヤ。酔ってるのか?」

「酔いなんて、すっかり冷めてますよ。ねえ、どれくらい?」

「言葉で言えないくらい好きだよ」

マヤは速水の手を取った。両手で握りしめる。唇を寄せた。

「……嬉しい……」

真澄はマヤを抱き寄せた。

「ずっと、ずうっと君が好きだった。……誰よりも深く……」

マヤは真澄を見上げた。涙が込み上げる。

「ごめんなさい、速水さん、あたし、気が付かなくて……」

「いいんだ、今はわかってくれているから……」

マヤは、真澄の手を取ると自分の胸のふくらみに置いた。

「マ、マヤ!」

真澄の熱が一気に上がる。
真澄の手のひらの下、綿ローンの生地を通して柔らかな胸のふくらみの感触が伝わる。

「ここにあたしの心臓があるの。速水さん、わかる? 速水さんにもあたしの鼓動、聞いてほしい……」

「……いいのか?」

「うん」

真澄はマヤの胸に自分の耳をあてた。
マヤの鼓動が聞こえる。

「あ……」

マヤの口元からため息がもれた。

暗闇の中、真澄は顔を上げるとマヤの瞳を覗き込んだ。
マヤの愛が真澄の愛を受け止める。

「……マヤ、愛している……」

「あたしも……、あたしも」

真澄はマヤに口付けをした。
深いキス。
何度目のキスだろう。そして、あと、何度キスをするのだろう。

真澄の深いキスはマヤの体を柔らかく溶かして行く。
昼間感じたあの感覚が、また、マヤに訪れた。


真澄はマヤの胸のリボンを解いた。
青いリボンがマヤの回りに落ちる。


月明りの中、マヤの白い体が浮かび上がった。
目を閉じ、真澄の口付けを受けるマヤ。
マヤもまた、真澄を求める。
真澄の背に腕をまわして抱きしめた。

 ……真澄さん……

マヤの声にならない声が愛しい男の名前を呼ぶ。
マヤの声に真澄は我を忘れた。

マヤの瞼、顎、首、鎖骨……。
真澄の唇が、ゆっくりとマヤの体を知っていく。
胸の柔らかな膨らみへ、その先端へ。

マヤの胸の先端で起きた感覚は全体に波及した。
波はマヤの体の奥へ奥へとやってくる。

マヤの反応に真澄の熱が更に上がる。
マヤも熱く温度をあげる。
真澄の手の中でマヤの白い体が桜色から桃の花の色へ染まって行く。


二人は肌を重ねた。






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