女神降臨    連載第2回 



 2月の或る日、マヤの元に、紫のバラの人から招待状が届いた。
ここはマヤのアパート。花屋に変装した聖唐人が招待状と紫のバラを持って現れた。

「北島マヤ 二十歳の誕生パーティ

  日時: 二月二十日
  場所: リストレンテ ジーラソーレ
  主催: 紫のバラ」

そしてメッセージが、、、。

「もうすぐ、二十歳の誕生日ですね。
 ささやかな宴を開きますので、あなたの招待したい方達を招いて二十歳のお祝いをしてください。」

聖唐人は20通の招待状をマヤに渡した。

「花屋さん、これはどういう事でしょう?」

「あなたの誕生パーティを開きたいと私の主人が申しまして、、、。
 あなたが招きたい方にこの招待状をお渡しください。
 20人位でしたら大丈夫です。」

「ひ、じゃない花屋さん! あ、あの、紫のバラの人は? こられないんでしょうか?」

「主が申しますには、私の事は気にせず楽しんで下さいとの事でした。
 人前には出られない方ですので、参加はされないでしょう。」

マヤはがっかりした。
もしかしたら、今度こそ、紫のバラの人に会えるかもしれないと思ったのに、、、。
聖はそんなマヤを気の毒に思いさらに言葉をついだ。

「マヤ様、マヤ様が私の主の事は気にせずパーティを楽しまれるのが、主が一番喜ばれる事かと思います。
 どうか、楽しんでください。」


マヤは、花屋に待っていて貰うと招待状の中から2通取り出し、宛名を書いた。
1通には、紫のバラの人。もう一通には、週間ジャーナルの松本様と書いた。

「あの、あの〜、花屋さん、紫のバラの人が会って下さらないのはよくわかってます。
 でも、一番招待したい方は、紫のバラの人なんです。
 来ていただけないのはわかっていますが、この招待状、紫のバラの人に渡してください。
 あたしの気持ちです。」

そう言ってマヤは「紫のバラの人」と書いた招待状を聖に渡した。
そして、花屋にも、

「花屋さん、これを週間ジャーナルの松本さんに渡してください。
 当日、来れなくてもいいんです。
 これがあたしの気持ちですから。」と言った。

聖はその申し出に苦笑しながら、答えた。

「マヤ様、承知致しました。先方様にお渡ししておきましょう。」

そう言って、聖は2通の招待状を受け取った。
マヤは更に紫のバラの人へのメッセージを頼んだ。
聖は早速、レコーダーを出すとマヤに向けた。

「紫のバラの人、こんなに素敵な誕生日のプレゼントをありがとうございます。
 もし、良ければ、パーティにいらっしゃってくださいね。
 いつも、いつも、あなたに感謝してます。」

マヤがメッセージを録音すると、そこへ、アパートの住人が出て来た。
時々、見かける男だ。マヤは、軽く会釈した。男も会釈をして通り過ぎて行った。
男が行ってしまったのを確認してから聖はマヤに今の男の事を聞いた。

「マヤ様、今の方は?」

「さあ、時々見かける人なんです。話した事はないんですけど、、、。
 何か?」

「いえ、なんでもありません。」

「花屋さん、週間ジャーナルの松本さんには、ぜひ来て下さいと伝えて下さいね。」

「はい、確かに、、、。」

聖は、笑顔を浮かべて帰って行った。

現在、マヤは、アカデミー芸術祭の発表待ちの為、予定のない日々を送っていた。
1月の成人式は学齢が取り入れられていたので、二十歳の誕生日はまだだったが、式には参加した。
紫のバラの人から去年のお正月に贈られた振り袖を着て。
部屋に戻ると、マヤは青木麗に招待状を渡した。

「へえ〜、紫のバラの人がみんなに二十歳の誕生日を祝ってもらうようにってかい?
 只で飲み食い出来るならぜひ参加させて貰うよ。」

「後、さやかに泰子、美奈に、一角獣のみんな、、、、。
 後は、、、うーん、、、どうしよう、桜小路君や黒沼先生は来てくれると思うけど、、、。
 そうだ、桜小路君には舞さんの分も渡さなきゃ。
 月影先生もお呼びしたいけど、、、。」

「先生は無理だね。梅の谷にいらっしゃるんだから。
 先生がお元気にしていて下さるだけでいいじゃないか。」

「そうね、そうよね。これ以上望んだらバチがあたるよね。」

マヤは、水城秘書にも送ろうと思った。
そして、去年の誕生日を思い出していた。
「二人の王女」に出演中の事を。


マヤ、19歳の誕生日。
その朝、青木麗が、誕生日おめでとうと言ってくれたが、身内のいない寂しさが普段より応えた。
ところが、「二人の王女」の楽屋に入ると、スタッフが一様に

「おめでとうございます。」

「誕生日、おめでとう、マヤちゃん!」

と言う。

「あ、ありがとうございます。」

とは言ったものの、何故、みんなあたしの誕生日を知っているのかしらと思った。
パンフレットに載っているからかな〜と思いながら、みんながみな、おめでとうって言うかしらとマヤは不思議だった。
さらに姫川亜弓まで、


「マヤさん、今日、誕生日なのね。」

と言われ、

「どうして、亜弓さんが知ってるの? あたしの誕生日!」

と、聞き返さずにはいられなかった。


「え! まだ、見てないの? だったら、ロビーに行ってみたら。」

姫川亜弓に言われ、ロビーに行って見ると速水真澄の花束があった。
マヤが速水との賭けに勝って、見事、速水から贈らせる事に成功した花束。
だが、今日の花束は普段の花束より倍以上大きな花束だった。
2段になった花スタンドのてっぺんにはでかでかとメッセージがついていた。

 「北島マヤ様 誕生日おめでとう!」

「は、は、速水真澄! もうもう、なんで、あたしの誕生日を大々的に宣伝するの!」

と驚いていると、側にいた記者が、

「へえ〜、あの男が北島マヤの誕生日を祝うって、これは何かあるな。」

とつぶやいたが、側にマヤが居る事に気づき大急ぎで口を塞いだ。

(そう、そうよね、あの男があたしの誕生日をわざわざ宣伝するなんてきっと何かあるわ。)

マヤは芝居があるので、速水の事は気にしないようにしたが、それでも、スタッフや、芝居仲間、あげくは、月影先生からも「おめでとう!」と言われ悪い気はしなかった。
その日の舞台のカーテンコールでは、客席から誕生日おめでとうと声がかかった。
舞台がはねた後では、アルディスファンの親衛隊の男の子達から、

「誕生日、おめでとうございま〜す。」

と言われ、拍手と共にヌイグルミやら、花束が贈られた。
マヤは見ず知らずの人が自分の事を祝ってくれるのが、ただ、嬉しかった。
そして、極めつけが「紫のバラの人」だった。
聖唐人から、普段より一回り大きい紫のバラと共にメッセージが渡された。

「誕生日おめでとう! いつもあなたを見ています。あなたのファンより」

そのメッセージを読むと、マヤの眼から大粒の涙が落ちた。
マヤは聖唐人にメッセージを頼んだ。

「いつも素敵な花束をありがとうございます。
 誕生日をあなたに祝っていただいてすごく嬉しいです。
 見ていてください。きっと、あなたのご期待に添えるようなりっぱな女優になってみせます。
 ありがとうございました!」

メッセージをボイスレコーダーに吹き込むとマヤは花束を抱えて家路についた。


(あの時、速水真澄がまた何かたくらんでいると思っていたんだわ。
 でも、結局何もなかった。
 みんなに誕生日を祝って貰っただけだった。
 あの男が宣伝してくれたおかげで、去年は身内がいない寂しさを感じないで済んだんだ。)

マヤは迷った。
速水真澄のおかげで「忘れられた荒野」は芸術祭に参加出来るようになった。
台風で観客が誰も来れない中、只一人来てくれた。
母さんの敵だけど、、、。
月影先生が手術中の時はコーヒーを持って来てくれた。
あの人、私を怒らせる事ばかりするけど、、、。

(どうせ余ってるんだし、
 それに、大都芸能の社長が私の誕生パーティに来るわけがない。
 招待したって来るわけないんだし、、、。
 一応送っておこう。)

水城からは、やはり仕事でどうなるかわからないと言ってきた。
速水から連絡はなかった。



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