狼の夏 第3部  連載第3回 




 翌朝、マヤの元に朝倉が家政婦を連れて来た。
朝倉はマヤに家政婦を引き合わせると、良ければ一緒にご自宅の中を拝見させてほしいのですが、と丁寧にマヤに頼んだ。
朝倉は麗を見ると、「えっ、男が、男が!」と目を白黒させた。
マヤが、女性だと言って紹介すると、これは大変失礼致しましたと丁寧に謝った。
マヤは、朝倉の生真面目な様子に、思わずくすくすと笑ってしまった。
マヤは、朝倉と家政婦にセキュリティのシステムパネルを見せた。そして、、、。

「このボタン、面白いんですよ。」

例のボタンを押した。
照明が落ちミラーボールがまわり、スクリーンにカラオケのイメージ映像が流れた。
始まった音楽は、デュエット曲として有名な「二人の銀座」。
マヤは朝倉と家政婦にマイクを渡した。

「いえ、私はその、このような楽曲には無縁でございます。」

家政婦は口を抑えて笑っていたが、喜んで歌い始めた。

「ほら、朝倉さん、一緒に歌いましょう。この曲なら知ってるでしょう。」

「いえ、奥様、私は、残念ながら本当に、音曲は不得手でございます。」

「やだー、朝倉さんたら、奥様だなんて、まだですよ〜〜〜〜。」

マヤは、真っ赤になって、朝倉の背中をバンバン叩いた。
朝倉は、目を白黒させながら、なんとか歌い始めたが、その調子は、歌というより詩吟に近い感じで、朝倉の後ろでマヤと麗は、必死になって笑いをこらえていた。

やがて、お遊びタイムが終わり、家政婦は3階の住居に荷物を置くと仕事に取りかかった。
朝倉は家政婦の様子に満足したのだろう、挨拶をして帰っていった。
その後、朝倉は密かに「二人の銀座」を練習。
後日、朝倉が新速水邸を訪れた際、直立不動で熱唱して見せたのだった。


午後、マヤはボディガードと青木麗と共に外出した。
麗は次回公演の打ち合わせに地下劇場へ、マヤはウエディングプランナーとの打ち合わせに、昨日の披露宴会場に向かった。
ウェディングプランナーは、

「式の準備はほぼ、出来ておりまして、ウェディングドレスも本日、仮縫いいただけます。
 ブーケの見本をご覧になられますか?
 お色直しは、いかが致しましょう?
 え〜、こちらが、速水様がお選びになった結婚指輪です。式当日まで、こちらでお預かりしております。
 披露宴のお客様にお出しするお料理は、こちらのメニューとなっております。
 テーブルセッティングは、こちらのお写真のようにする予定です。
 式と披露宴は、大都の記録係がビデオを取る予定になっています。
 新婚旅行ですが、どうされますか?
 さすがに、速水様では、お決めになれなかったようでしたが?」

そう言ってウェディングプランナーは、新婚旅行用のパンフレットを出してくれた。

(熱海じゃ、駄目だろうな〜。はあ〜。)

マヤは、速水と婚約する事によって、なんと立場が変わってしまったのだろうと思った。
節約人生から、散財人生へ。
これでいいのだろうかと思ったが、一生に一度の事だし、速水が嬉しそうにしていたのを思い出して自分を納得させた。
取り敢えず、ウェディングドレスの仮縫いをして貰い、新婚旅行のパンフレットを貰って帰った。


その夜、マヤは、速水にメールを打った。

マヤ:新婚旅行はどうしますか?

速水:君と2人なら、どこでも。

(は、速水さんったら、もう、もう、こんな甘い事いわれちゃっても、、、)と一人照れるマヤだった。

麗は、マヤのそんな様子を見ながら、何気なく、カラオケシステムを作動させた。
ちょっと、歌って遊ぼうと軽い気持ちでスイッチを入れたのだが、、、、。
昨日と同様、照明が落ちミラーボールがまわり、スクリーンにカラオケのイメージ映像が流れた。
始まった音楽は、ザ・ピーナッツ「恋のバカンス」。
麗は、古い曲だなと思ったが、マヤが新婚旅行に悩んでいる今、なんとなくベストな選曲だなと思った。
しかも、女性2人のデュオ。
麗もまたこのカラオケシステム、選曲が古い事を除けば出来すぎているなあと感じた。
だが、そんな事はすぐに忘れて、さっそく、マイクを取り上げ、マヤと熱唱。
二人は多いに盛り上がったのだった。





麗からカラオケの話を聞いた劇団「つきかげ」と「一角獣」の面々は、新速水邸に遊びに来ていた。
全員わくわくしながらカラオケのスイッチを入れた。
照明が落ちミラーボールがまわる。一曲目は、ウルフルズ「明日があるさ」(ジョージアで行きましょう編)
その場に居た全員、女優、俳優のまだまだ駆け出し。
やっぱり、嫌みだ〜と思ったが、皆、開き直って、

 あしたがあ〜る〜さ〜

と歌った。まずは、全員で歌える曲。

「次はあたしが歌うよ!」

と言って、マイクを持った二の宮恵子。かかった曲は、和田アキ子「あの鐘を鳴らすのはあなた」。
確かに、和田アキ子に対抗できるのは、おケイさんだけ。
このカラオケシステム、出来すぎている。全員爆笑。
次に、団長の堀田と沢渡美奈がマイクを持つと、デュエット曲、トワ・エ・モワ「或る日突然」。
そう、二人は或る日突然、恋に落ちた。ヒョーヒョーと皆で二人を囃し立てた。
さやかと泰子がマイクをもつと、ピンク・レディー「UFO」。
ミーとケイを演じられるのは君たちだけだとやじが飛ぶ。
団長の堀田がマイクを持つと、アニソン「鉄人28号」。ガオーと叫ぶとはまり役。
青木麗がマイクを持つと、アニソン「ベルサイユのバラ」
オスカル役は君だ!と全員でエールを送る。
マヤがマイクを持つと、ザ・ヴィーナス「キッスは目にして」。
歌はいいからペンキ塗りのマイムとヤジが飛ぶ。
最後に全員で、アニソン「宇宙戦艦ヤマト」を歌った。
なんとなく、出来すぎた選曲に、皆、満足。
爆笑に次ぐ爆笑でお開きとなった。
皆が帰った後、うっかりカラオケの電源を落とさずに眠ったマヤは、翌朝リビングに行ってびっくり。
スクリーンに文字が表示されていた。

「おはようございます。発声練習のお時間ですね、いってらっしゃいませ。」

(このカラオケシステム、素敵!)

マヤは違和感なくこのシステムを受け入れた。




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